アーアー確かに、女みてェな頭してやした。見たいか?今度写真ばらまいてやりまさァ。…じゃ、近藤さんと土方死ねが取り込んでる内にとっとと続き。


土方コノヤローには言ってないが、武州を離れると知らされたとき、俺と名前はちょいと取り込んでた。詳しく言うつもりは無ェが、簡潔に言うと俺の幼い純情が土方の一言によって傷付けられた訳だ。ま、俺に向けた一言じゃなかったけど。
柄にも無くふらふらして、部屋の隅に蹲った。今思えば何であんなに傷付いたのか分からない。膝に顔埋めてじっとしてたら、俺を探す名前の声がする。情けないところは見られたくなかったが、こういうときに限ってあいつは直ぐに俺を見つけやがる。そのときから空気の読めない女だった。障子を開けて、俺を見つけて、焦ったみてェに駆け寄ってきた。俺の背中を摩りながら。総悟どうしたの、何が悲しいの、ってな。俺は喋りたくなくて、ただじっと黙ってた。そしたら名前の方から問いかけてきた。近藤さんに叱られたのか。否定。ご飯を土方に取られたのか。否定。私がいなくて寂しかったのか。全力で否定。

「…ミツバお姉ちゃんが、トシと仲良しだから?」

俺は自分の目が自然と見開くのを感じた。その質問のときだけ、名前の声がやけに大人びている気がしたから。それから何故か、首を縦に振った。名前はそっか、そっかと呟きながらしきりに背中を撫でた。
実際のところ俺はちっともそんなこと気にしちゃあいなかった。いや、全く気にしていないと言えば嘘になるが、俺は多分そのとき何かやましい気持ちがあったのだと思う。もしかしたら、名前が姉上を取り返してくれるかもしれない、と。ただそう思いながら、名前が根本的なところで勘違いをしていることには気付いていた。気付きながら、俺はそれを見逃した。

だからその後近藤さんがやってきて、俺と名前を見て狼狽えた後、名前が発した言葉を否定しなかった。

「ミツバお姉ちゃんが、総悟を泣かしちゃった」

勿論あの優しい姉上が俺を泣かせる筈は無い。近藤さんはそれを分かってるから何か言いたげに口を開いたが、俺達の様子を見て噤んだ。それからだ、武州を離れることと、姉上と名前を置き去りにしなければならないことを聞いたのは。


次の日、珍しく姉上が起こしてくれなかったもんで俺は寝坊した。っても怒られる訳じゃねェし、のんびり道場に向かった。何やら騒がしいことに気付いたのは、道場の扉の真ん前に立ったとき。名前の金切り声と土方コノヤローの怒声がした。

「だから!お前が来ても足手纏いなんだよ!」
「トシの足になんかくっつかないもん!近藤さんと一緒にいるもん!」
「そういう問題じゃねー!」

扉を開けると、直ぐそこに眉を下げた姉上がいた。俺に気付くとおはよう、と挨拶をしてくれたが、その顔は浮かない。
道場のど真ん中で、土方と名前が睨み合っている。まさに一触即発。

「…名前ちゃんがね、どうしても皆と一緒に行きたいらしくて」

困ったと言わんばかりに頬に手をやる姉上。見渡せば、皆二人を止められず目配せしあっていた。その間も、あいつらの喧騒は止まない。
前々から分かっていたが名前は馬鹿だ。わたしのこと嫌いなんだ!だとか叫んでやがる。土方が何故連れて行きたがらないのか、誰にだって分かる。ガキ、しかも女とくりゃあ、危ないに決まってるからだ。先の見えない出発だってのに。

近藤さんが名前を見つめて、それから諦めたみてえに溜め息をひとつ。そしてふと俺に目線を向け、声高らかに言った。

「あーよし!じゃあ、総悟に勝てたら連れて行ってやろう」






20111008


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -