何だ何だ、トシもよく覚えてるじゃないか。そうだなー、総悟もまだ小さかったなァ。トシなんてポニーテールだったよなァ!ハッハッ…あっごめんごめん痛い痛いやめてェ!みんなが続き待ってるからァァ!


トシに言ったことが、あながち冗談じゃあなかったかも知れないと思った。あれからあの女の子…名前ちゃんの剣の腕はめきめきと成長して、いつの間にか総悟と変わらない程強くなった。トシや俺にはまだまだ敵わないが、この先力をつけていけばどうなるかは分からない。女の子である名前ちゃんと同等なのが気に食わないのか、総悟は寝る間も惜しんで鍛錬に励む。そんな総悟を見て、名前ちゃんは同じように竹刀を振る。総悟の背中を見て特訓してきたんだから、まァ当然のことだ。そうして切磋琢磨して育っていく二人を、俺は何とも言い難い、親の様な気持ちで見ていたんだ。

道場外でも、俺達はまるで家族だった。大勢で囲む飯を取り合う子供をトシが怒鳴れば、倍の仕返しが二人から。それをミツバ殿が諌め、俺は笑った。他の奴らも笑っていた。

「もういい、トシのご飯もらうもん」
「ふざけんな、土方の飯は俺のモンでィ。ほら寄越せ」
「どっちにもやるかァ!!」

配役は…そうだな、勿論総悟と名前ちゃんは子供で、ミツバ殿が母親。父親は…俺、と言いたいところだったが、残念ながらそうは言えない。何でって、俺の目から見ても、ミツバ殿がトシへ特別な感情を抱いていることは確かだったからだ。トシとてそれは同じで、それらは名前ちゃんが来てますます濃くなったと思う。娘みたいな存在ができたことで、だ。俺はそれを良い事だと思った。荒々しかったトシがミツバ殿の為に優しくなろうとしているのなら、それ程喜ぶべきことはないだろうと。
暫くすると、二人でいる時間も多くなってな。邪魔立てしちゃあ悪いと、トシやミツバ殿を探す総悟たちをそっと別の場所に追い遣ったりしてな。

「トシはー?」
「姉上はどこに行きやした」

丸い目が四つ、俺を覗き込むのが可愛かった。買い物に散歩、いつも言葉を濁して誤魔化しちゃあ遊んでやったなァ。最初の内はトシだの姉上だの言ってたが、次第に遊びに夢中になってた。

ずっとこうして過ごせると思ってたが、人生そうもいかないらしい。廃刀令とかいうやつが発布されて、俺達の居場所はなくなっちまった。しかし、結構な数の門下生を、路頭に迷わせるわけにはいかない。この先どうなるか分からんが、俺が面倒を見ていこう。そう決めた。
そうして武州を後にすることを決心して…恐らく安全な道じゃあない、ミツバ殿はここにいてもらおうって話になった。女性を連れていくにはあまりに危険じゃないかと判断したのことだった。そうなると自然に名前ちゃんも残すことになって、寂しい思いをさせるんじゃないかと少し心配になった。しかしもう決まったこと。誰かが伝えにゃならんのだが、どいつも嫌がる。当然だ、小さな女の子を傷付けることになるかも知れんからな。

結局、名前ちゃんには俺が伝えることになった。





20110407


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