昔の話をしようか。ん?こんなときに何だって?こんなときだからだ、いいじゃないか。聞け聞け。俺にトシ、総悟や…ミツバ殿、他の奴らもだが。まだ武州にいた頃の話だ。


俺たちはいつも通り道場の中で竹刀を振って鍛錬に励んでいた。総悟は真剣を翳していたが…ま、子供の可愛い悪戯みたいなものだ。普段と変わりない面子だったが、トシだけがいない。差し入れにと握り飯を持ってきてくれたミツバ殿に聞いてみるとどうやら散歩に行ったらしい。あいつをここに招き入れてから随分経つが、結構自由人なことが分かった。それでも勝手にふらふらするのは短時間で、直ぐに帰ってくる。
中央に集まって腹を満たす俺たちの耳に、扉が開く音が飛び込んだ。そら、帰ってきた。普段からトシに悪さをする総悟は早速立ち上がり、さっきまで振っていた真剣の切っ先をトシがいる方向に向けた。こら総ちゃん、ミツバ殿が眉尻を下げて諌めたが、総悟は何故か目を見開いて叫んだ。その理由は直ぐに分かったんだがな。

「何でィ、それ!」
「…拾った」

俺はトシに背を向ける形で座っていたから、振り向くまでそれが見えなかった。ミツバ殿がまあ、と口を押さえる様子しか見えなかったもんだから、無理矢理首を捻って振り返った。他の奴らもざわついている。そりゃァそうだろうな、トシの手には総悟の同じくらいの歳の女の子がぶら下がっていた。トシに襟首を掴まれたその子は宙に浮いた足をばたつかせ、逃れようと必死だった。
トシは俺たちに歩み寄る。そうして驚いた表情のままのミツバ殿にその子を押し付けた。女の彼女に預けた方がいいと思ったんだろうな。現にその子はトシの手を離れミツバ殿にしがみついた。ミツバ殿の胸に顔を埋め縮こまるその子は酷く怯えていた。俺がトシを見上げると、トシも俺を見た。

「森ン中で倒れてた。身寄りも知り合いもねェらしい」

こんな小さな子が。俺が驚きに口を開くのと同時にミツバ殿が女の子を抱えて立ち上がった。

「随分弱ってるみたいですから、休ませてきても…?」
「おお、お願いします!」
「姉上、おれも行く」

興味津々の総悟を連れて、ミツバ殿は道場を出て行った。俺たちはざわついたまま。

「よく拾ってこようと思ったな、トシ」
「…別に、大した意味はねェよ」

そう言ってそっぽを向いてしまったが、俺にはトシの不器用な優しさが伝わってきた気がした。本当に素直じゃない奴だ!





20110405


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