むかえにきたよ




今年はホワイトクリスマス。
最愛の人と手を繋いでイルミネーション、とまではいかなかったものの、小雪は友人と過ごす今日を満喫していた。
寒さ対策にもこもこと厚着をして、キラキラ輝く街並を歩く。両手に洋服やアクセサリーが入ったバッグを持って、白い息を吐いた。

「…あー、ごめん、時間だ!」
「全然いいよ、楽しんできて」
「本当ごめんね、ありがとう!また連絡する」

首元のファーを落ち着き無く撫でながら、友人は手を降って駆け足で去っていった。彼女は、これから彼氏とディナーらしい。羨ましいような、妬ましいような。しかし、幸せそうな友人を見ているとこちらまで笑顔になれる。緩む頬をマフラーに埋めながら、ゆっくりと足を進めた。
街のあちこちで、サンタ服の人がケーキを売っている。クリスマスにまでお疲れ様だ。その鮮やかな赤い色を見ていると、小雪の脳裏に、ふと蘇るものがある。鮮烈すぎる赤に、黒い銃声、袴、美女…彼らと会ったのは、もう何年前のことだろうか。偶然に出会っただけの彼らは、小雪に強烈な印象を残していった。
刑事である父は「けしからん奴らだ」と憤慨していたけれど、自分としては、もう一度会ってみたかった。世界的犯罪者とはいえ、陽気な人たちだった。小雪の頭の中で再生されそうだった思い出は、突然鳴り響いた着信音でかき消された。自分のポケットの振動に気付いて、急いで携帯を取り出した。母からの着信だった。

「もしもし?」
『もしもし、小雪?』
「どうしたの?」
『今日なんだけどね、お父さん急に帰れなくなっちゃったのよ』
「え?」
『何でも予告状がきたんだって。あの…』

非常に落胆しているらしい母の声が、大きな雑音に飲み込まれた。ババババババ、何かの音と共に、小雪の頭に衝撃が走った。ゴツッと嫌な音を立てて頭頂部にぶつかり、そしてアスファルトへと落ちていったのは、小さな四角い箱。包装からして、プレゼントだろう。携帯を耳に当てることも忘れて呆然としている小雪の耳に、湧き上がる歓声が聞こえた。
コン、コン、コン。空から、いくつものプレゼントが降ってくる。道を歩いていた子供たちが、はしゃいでそれを拾っていく。ハテナマークを飛ばす小雪。最初に聞こえた雑音が一際大きくなったと思ったら、馬鹿でかい男の声が響いた。

「メリィィィィクリスマァァス!」

空を見上げた。すぐ側で低空飛行しているヘリコプターから、見覚えのある顔がこちらを覗いていた。男は持っていた拡声器を放り投げて、小雪に向けてニカッと笑む。
暫く放心状態だった小雪は、次の男の一言で我に返った。顔を輝かせて、先程の友人のように駆けて行く。差し出された手を取ると、小雪の姿はヘリコプターへと消えた。そのまま上昇していく。

どきどきと高鳴って止まない心臓。小雪が大きく息を吐くと、右側から衝撃がきた。ふよん、顔にあたる柔らかな感触は正しく女性のそれ。会いたかったわあ、独特のソプラノが言った。黒のボルサリーノは運転席で煙草を吹かしている。何も言わない刀の男は、優しい視線で小雪を見つめ、また目を伏せた。「メリークリスマス、小雪ちゃん」ジャケットの男が改めて言う。小雪は嬉しそうに笑った。「メリークリスマス、皆!」



「サンタさんがむかえにきたよ」







20101226




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