敗北





まァた来た。
遠くから聞こえるドアの開く音と、廊下を走る足音を聞いて、次元は眉間に皺を寄せた。ソファに寝転がったままふかしていた煙草を揉み消し、帽子をずりさげ顔を隠す。狸寝入りが無駄だとは分かっていても、やらずにはいられない。
今アジトにいない三人のそれ…ひとつひとつの間が広いルパン、擦るような五ェ門、軽い不二子、誰のものでもない足音は、リビングに入ってきて止んだ。

「あれ、次元だけ?」
「…」
「ルパンも五ェ門もいないのー、なあんだ、次元かあ」
「…」
「せっかく来たのに損したなあ、よりによって次元なんて」
「…俺で悪かったな」
「やっぱり起きてた」

少女の口から飛び出る言葉に機嫌を損ね、思わず声を発してしまう。しめたと言わんばかりの表情の少女は、短いスカートを揺らして次元の足元に立った。惜しげもなく伸ばされていた長い足を力ずくで退かせ、空いたスペースに腰を降ろす。それに小さく舌打ちをした後、帽子をあげないまま次元が口を開いた。

「とっとと帰れ」
「ひどい!」
「お目当ての奴は誰もいないんだろ、用もねえのに出入りするな」
「もう、次元に用事があったのよ、本当よ」

突き放す様な冷たい台詞にも少女は動じなかった。へらと笑って、次元の体の上へのしかかる。顔を近付けると、次元は口をへの字に曲げて顔を逸らした。開いた胸元、制服からみえる若い素肌がどうにも視界に入る。一回り程も年下の女に翻弄される自分を恥じた。また舌打ち。
少女は暫く中年の男の髭面を見詰めていたが、ふと思い立ったように上半身を起こした。下敷きにされている次元はたまらず声をあげる。ぐ。そんなに重くないし!少女の軽い平手打ちを食らって、仕方なく黙った。

「あのね、欲しいものがあるの。お願いしようと思ってきたんだ」
「生憎だな、女に弱いルパンはいねえ、甘やかしの五ェ門もいねえ。強欲仲間の不二子もいねえぞ」
「次元がいるもん」

小首を傾げる少女に、大きな大きな溜め息をひとつ。次元が了承の意を示す前に少女は宝石の話を始めた。年齢に似つかわしくない話題。その合間合間の笑顔。反論できなくなった次元は、帽子をかぶり直し、大人しく少女の声に耳を傾けた。
弱いだの甘やかしだの、人のことを言えたものではない。情けない自分をかき消すかの様に、新しい煙草に火をつける。煙は勿論、少女を避けて吐くのだった。



敗北







(難産!)
20101120




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