角砂糖の午後





「ごめんね、今は子猫のご機嫌取りに必死なんだ」
『あら…それなら仕方ないわね』

何時もなら食い下がる女も、その言葉を聞くとあっさりと諦めた。それは女とてその"子猫"を可愛がっているからであり、こんな時男が決して自分を優先しないことを分かっているからだった。
物分かりのいい女に笑んで感謝の言葉と電話越しのキスを贈ると、叱咤の声が返ってきた。早く戻りなさいよ、電話なんかしてないで。男が返事をする前にブツリと二人を繋いだ電波が切れる音。掛けてきたのはどっちだったか、頭を掻いた後、男は携帯を胸ポケットにしまい込んだ。それからコーヒーメーカーに手を伸ばし、二人分。ブラックと、たっぷりミルクを入れて甘くしたもの。フンフンと鼻歌を奏でながら、リビングへ足を向けた。

「お待たせ」

ソファに座る"子猫"に笑いかけながら、男はその向かい側に腰を下ろした。コーヒーを二つ、テーブルにコトリと置く。子猫と呼ばれていた女はそれに目を向けたが、すぐにむくれた様な表情をして顔を背けた。

「まあだ拗ねてんの」
「…悪い?」
「いやいや」

それから女は黙って何も言わない。男は苦笑を浮かべて、コーヒーを飲んだ。他に誰もいない、夕時のアジトには真っ赤な夕日が射す。

「ルパン」
「はいはい」
「隣」

暫く続いた沈黙に、男がうつらうつらし始めた頃。女の声で弾けるように顔を上げた男は、女を見る。ぽんぽんと自分の隣を叩く動作を見て、男は腰を上げ、言われた通りの場所に移動した。
拗ねた様子を隠しもしない表情で自分を見上げてくる女を、男は少し笑った。厭味ではなく、その素直さが純粋に可愛いと思えたからだったが、女は更に臍を曲げた様だった。
ごめんごめん。謝罪する気など更々ない声色で言いながら、女の肩に腕を回す。ぐいと自分へと引き寄せると、何の抵抗もなく女は男の胸へと収まった。大人しい女の頭を撫でてやると、声がする。

「私のこと好き?」
「勿論、だあいすき」
「本当?」
「俺様が小雪に嘘吐いたこと、あったっけか?」

ふと顔を上げた女の目元は潤んでいて、思わずドキリとする。自らの中に沸き上がる不純な衝動を抑え込みながら、女の額に唇を落とした。瞼、鼻先、頬と、至るところにリップ音を鳴らす。擽ったそうに身をよじる女が酷く愛らしく感じ、男の頬が緩んだ。

「次元も五ェ門も不二子も、みーんな愛してるよ、小雪を」

まるで口説き文句の様に優しく言ってやると、ようやく女の顔に笑みが広がった。柔らかい髪を撫でながら、男も笑った。
女が機嫌を損ねる理由は、いつだって不安から。可愛いものだと目を細めながら、男はコーヒーに手を伸ばした。



角砂糖の午後








(甘やかしルパン)
20101113




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