「王手!」

紅や黄の葉が繁り今にも散っていこうかという秋の暮れ。境内に澄んだ声が響いた。

「なまえちゃん、そういうときはこっちを動かさないと」
「いいえ、王手です!」
「…あ、今白いカラスが、」
「……嘘ですよね」

先程から幾度となく同じやり取りをし終局を逃れていた沖田だが、そう何度も繰り返しては流石にもう言い逃れは出来ない。

「………わかったよ、僕の負け」
「やったぁ!」

決して弱くはない沖田に白星を挙げ無邪気に喜ぶ彼女を横目に、ほっとしたように柔らかい笑みを浮かべた。



葉を落とす前の最後の力を振り絞り鮮やかに色付く紅葉。人間はそれを眺めて嗚呼、綺麗だと満足げに溜め息を吐き、紅葉の最期を見届ける。

「…僕の最期は誰が見届けてくれるのかな」

台を挟んで向こう側にいる彼女には聞こえないように、こっそり呟いた。
毎日を精一杯生きて、ひとたび戦場に赴けば青い羽織りを朱く染める日々。元より長い命ではない、今更いつ何処で最期が訪れようと悔いはないが、こんな人斬りのろくでなしでもやはり独りは怖いのだ。

「ねぇ沖田さん」
ぼんやりと考え事をしていたところに、不意に優しい音が入り込んできた。首を傾げて見ると、隣の彼女も同じように庭先の紅葉を見つめている。

「綺麗な、紅ですね」

まるで吐息で葉が散ってしまうのを恐れるかのように息を潜めて言った。

「…うん、そうだね」

彼女は何を想い、最後の輝きを放つ燃えるような紅に何を感じているのか。しかし前を向いたまま空を見上げる彼女の晴れた顔を見ていたら、急に自分の考えがちっぽけに思えて、難しく考えるのをやめた。





「ところでさ」
「はい?」
「ここ、部外者は立入禁止なんだよね」
「……え、」
「ただの町人のなまえちゃんを入れたのがばれたら僕、士道不覚悟で斬られちゃうなぁ」

僕の居場所は戦場だ。守りたい人を、きみを後ろに庇って、仲間に背中を預けて最後まで戦っていたい。

「そんな、沖田さんが入れって言ったんじゃないですか…!」

やがて経験するであろう負け戦にて朱く染まった羽織りに折り重なって倒れ伏す僕の最期を、きみはきっと、紅葉を綺麗だと言ったその瞳で見つめるのだ。酷く寂しそうに、でも優しく暖かい眼差しで。
そのときには着物が汚れるのも構わずに僕の肩を抱いて、こう言って欲しい。

「……よく頑張ったね、おやすみ」
「え?」
「なんでもない」

少し勢いをつけて彼女の前に降り立つと、吸い寄せられるように口づけをした。

「…僕の連れってことにしておけば、部外者じゃないからね。いいでしょ、今だけ」
「、…!」





『我が儘をひとつ』
(きみより早く朽ちる僕を)
(許してくれる?)


101219.


一番側に居て欲しいのに、きっと幸せにしてあげられないからといまいち踏み出せない沖田さん。

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -