月の綺麗な夜。町内の巡回という隊務を終えて屯所に帰ってきたなまえは、速やかに報告を済ませ自室へと引っ込んだ。羽織りを脱ぎ、軽くて薄い普段着に着替える。今日はもう寝てしまおうと、部屋の中央に布団を敷いた。

「………足音?」

寝転がっていると、不意に物音が響いた。普段こんな遅い時間に訪ねてくるものはほとんどいない。新選組唯一の女性隊士である彼女の部屋は近藤さんの計らいで幹部達の部屋とは少し離れているため、物音がすること自体が珍しかった。

「土方さんかな、何かあったとか」

考えれば考えるほど不吉な予感しかせず、思わず布団の上に正座して足音の主を待った。

「……………あれ?」

音が止んだ?不安になって障子を開けると、廊下の先に誰かがうずくまっている。月の光に反射するあの赤毛は…

「…左之さん!」

十番隊隊長である原田左之助であった。慌てて近寄ると、香る酒の匂い。

「ん、…なまえ?」
「またお酒ですか?もう…しっかりして下さい、よっ」

放っておくわけにもいかず手を貸して立たせると、さらしはゆるゆると解けお腹には墨がべったりとついている。

「……やったんですね、」
「おう、今日はとくにうけたな」

誇らしげな原田を横目に考える。ここから左之さんの部屋は遠い、一人で部屋に帰しても恐らくこのまま寝てしまうか、或いは部屋まで辿り着かないかも。

「…左之さん、ほら、行きますよ」

足元の定まらない原田に肩を貸し、一先ず自室に戻る。墨を拭いて、それから部屋に送ればいい。そう考え、原田を座らせると水を張った桶と布を準備しに部屋を離れた。





部屋に戻り脇に桶を置くと、まず中途半端に纏わり付くさらしを解いた。

「…左之さん、ちゃんと立って!」
「ああ、悪い」

みんなもう寝てしまったのか、しんと静まり返る空気に自然と小声になる。それでも手だけは止めず、濡らした布で墨を拭き取っていった。

「……くすぐってぇな、はは!」

状況を理解していないのか、眠たげな瞼を擦りながら声を上げて笑っている。この酔っ払いめ。

「…よし。左之さん、終わりましたよ」
「…………」
「……左之さん?」
「眠い、一緒に寝るぞ」
「は、」

汚れた布を洗い振り返ると、原田の腕に抱えられ顔面から布団に突っ込んだ。

「いだっ…!」

背中には原田の腕が置かれている。なまえは俯せに倒れ込んだまま死んだように眠る男の顔を見て諦めのため息を吐き、その間抜けな優しい寝顔に免じてそのまま隣で眠ることにした。





翌日の朝。隣の体温にすっかり安心して寝過ごし、心配して起こしに来た平助の叫び声で目を覚ました。

「わー!ちょ、なまえ!?」
「……何だ、うるせぇな平助」
「ひ、土方さん!左之さんとこいつが!」
「なになに、何か面白いこと?」
「総司、やめておけ」
「うぉっ左之…羨ましいやつめ!」
「新八くん」
「あ、山南さんも起きてたのか…」

しばらくして騒ぎが落ち着くと土方さんの前に正座させられ、布団の脇に無造作に放ってあるさらしについての説明を求められた。

「…だから左之さんは酔っ払ってて、」
「墨を拭いてあげましたってか」
「そうです!さっきから言ってるじゃないですか」
「それにしちゃ桶も何もねぇじゃねぇか」
「それは…朝起きたら消えてて」
「ばか野郎、桶が勝手に消えるか!」
「だから!もう、左之さん起きてよ…!」





『触れたいと焦がれる』
(………総司、)
(あはは、僕って親切だよねぇ)
(左之さんだって)
(どうせ確信犯なんでしょ)


100808.


おやすみまんの理人様に捧げます。
お持ち帰りは理人様のみです。


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