一先ず部屋に戻りこれから先のことを考えなければと、少女の左手を引いて歩く。先程のは嘘泣きだったのか、頬に涙の筋はあるものの、瞳は既に好奇心で見開かれていた。

「…少し待て」

一度立ち止まってしゃがみ込み、己の袖で顔を拭いてやる。少女はすっきりすると笑顔でありがとう、と言った。

「いや、いい」

年相応の可愛らしい表情に、斎藤も自然と微笑みを返す。副長に幼子の世話を押し付けられたときは面倒だと思ったが、お互い歩み寄ればなかなかに良い関係が築けるかもしれない。まだ会ったばかりなのだ、部屋に戻ったらこの子の話を聞いてみよう。



「なんだなんだ、斎藤の好い人か?」
「随分とお似合いだぜ、お二人さん」

少女を屯所に連れて帰ってから初めて心安らいだ時。しかしそれも束の間、先程からこの広い屯所内で何故こうも人に出くわすのか、今度は赤毛と筋肉である。

「左之、新八、」
「なんだよ水くせぇ、さっさと紹介しろって!」

冗談なのか、それとも本気で俺の好い人だと思っているのか。後者だとしたら松本先生を呼んだほうが良さそうだ。

「迷子だ、甘味屋の帰りに拾った」
「…拾い食いは良くないぜ、斎藤」
「…阿呆には付き合ってられん」

真剣な顔つきで声を潜めた新八に溜め息を零し、踵を返す。数歩踏み出したところで少女に行くぞ、と声をかけようとして振り向くと、少女は瞳を輝かせながら会話の真っ最中だった。

「ひろいぐいって、なぁに?」
「ん?そりゃあな、お前が斎藤に食われちまうってことだ」
「たべられちゃうの?」
「そうだぞー、斎藤もやるときゃヤ」

腰に刀でもあれば抜いていたかもしれない。先程の数歩を一瞬で踏み込むと、阿呆の鼻先で手刀を止める。冷たい空気の中、ごめんなさい、と引き攣った声が聞こえた。

「まぁまぁ、斎藤」

左之の声に促されて手を下ろす。

「…怪しいか」
「いや、土方さんとこ行ってきたんだろ?」
「あぁ」

先からずっと口を開いているのは新八で、左之は後ろから面白そうに見ているだけ。土方さんの決定には従うが信用はしていない、そういうことなのだろう。こいつは昔からそういう男だ。



「そういやお前びしょ濡れじゃねぇか」
「あめふってるの!」
「あぁ、今日天気わりぃもんなぁ」

おもむろに頭に巻いた緑の布を外すと、新八は少女の髪をがさつに拭きはじめた。普段は気づかないが実は綺麗な栗色の髪を珍しそうに触る小さな女の子と、目線を合わせて膝をつき少女の腕に邪魔されながらも水を拭ってやる男。

「…知らなかったな、新八が年下好きとは」
「どっちがお似合いだっつぅ話だな」



部屋に戻ってから拭いてやる手間が省けたと思う反面、役目を取られたような気がして悔しいのは何故だろうか。





『赤毛と筋肉と』

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