「おい、小娘」
「………」
「…返事も出来ねぇってのか」
「…………は、」

はじめぇ…!そう言って振り返った小さな少女の瞳は大きく見開かれ、涙で溢れていた。



話は少し遡る。俺が土砂降りの京の町で迷子を拾い屯所に戻ると、よりにもよって最も出会いたくなかった総司に出くわした。色々聞かれると面倒だ、余計なちょっかいをかけられる前にと少女を背中に庇いながら副長の前へ連れて来たところであり、これからしばしの滞在を許可してもらうつもりなのだが…。

「はじめ、じゃねぇ!こっちを向け!」
「…いーや!」

まだ名も知らぬ少女は始終この調子、これでは拉致があかない。

「副長、俺が親御さんを探す間、彼女を此処においてはいただけないでしょうか」

鼻を啜りながらぐずる少女を宥めつつ副長に頭を下げる。ここまで連れて来て、今更追い出すわけにはいかない。

「……ちっ、お前がそこまで言うんならしょうがねぇ」
「ありがとうござい…」
「だが!」

ます、と続ける前に遮られ俺は言葉を止めた。

「責任はお前が取れ。飯、寝泊まりの世話、その他諸々をお前に任せる!」
「…了解しました」

自分で持ち込んだ厄介事なのだから当然のことだ。しかし幼子の世話など…、やはり総司に笑われるのも時間の問題か。



「斎藤、そのガキ連れて早く行け」
「は、…部屋はどのように?」

鬼と恐れられる自分がこんな小さな子に会話を拒まれた、と眉間に皺を寄せて溜め息を吐いている副長に聞き返した。

「お前んとこだろ、こんなちっせぇガキ野放しにする気か?」
「………いえ」
「それから斎藤、頭拭いとけ。そっちのガキも。風邪引くぞ」
「…はい」

一礼してから立ち上がり、少女の手をひいて副長の部屋を後にする。もしかして俺は大変な預かり物をしてしまったのではないか、歩きながら考えて少し頭が痛くなった。





『泣く子も黙るなんとやら』




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