「あ、の…お口に合いますか?」

とりあえず原田さんにはうちで生活してもらうことになって、時間も時間だし朝ご飯でも食べながらゆっくりこれからのことを相談することにした、のだが。差し迫った問題がひとつ。

「原田さんが普段何を食べてらっしゃるのか検討もつかなくて」

昔イコール和食という安直な考えから白ご飯に味噌汁、だし巻き卵を作ってみたのだが、なにしろ150年間をすっ飛ばして突然この時代へやってきたのだ。見る物全てが目新しく、怪しく映っていることだろう。そして当の原田さんはといえば、味噌汁を一口啜ったきり無言を通しているのだ。
己の役立たず加減にへこんでいると、ぽつり、と原田さんの声がした。

「…………うまい」
「…原田さん、涙が」
「お袋の、味がする」
「………センチメンタルですか」
「?」
「いえ、何も!」

それからは、さっきまでが嘘のように今度は息つく間もなく箸を伸ばし始めた。
口に合わないんじゃなくて良かった。知り合って3時間のわたしに頼るしかないこの世界で、不安だったんだね。原田さんの笑顔を眺めながら何だかほっこりと幸せな気分になった。





「はい、どうぞ」
「お、悪いな」

食後のお茶を啜りながら、議題を頭の中に並べてみた。食事中はついに話しかける隙が見つからなかったのだ。

「味噌汁おいしかったですか?」
「ああ、すげえうまかった。なまえは料理うまいんだな」
「いえ…そんな、普通ですよ……」

語尾が尻すぼみになる。これは昨日から思っていたのだが、原田さんの笑顔は心臓に悪い。射抜かれるという表現もあながち間違いじゃないと思う。

「は、原田さんがすごくおいしそうに食べてくれて嬉しかったです」
「…なあそれ、」
「はい?」
「原田さん、ての」
「はい」
「これから世話になるんだし、左之でいいぜ?」
「……左之…さん」
「…ま、いいか」

二人でぷっ、と吹き出した。誰かとこんな平和な会話をする朝も、いいかもしれない。



「とりあえず服、ですね」
「これじゃ駄目なのか?」
「一枚じゃ洗濯追いつきませんよ」
「そりゃそうだ」

生憎一人暮らしなうえにうちに洋服を置いておくような関係の相手もいない。

「午後は買い物に行きましょうね」
「ああ、わかった」
「買い物の間は窮屈でしょうけどわたしのジャージでも着てください、確か大きいのもあったはず…」



午後は約束通り買い物に行った。左之さんは洋服のことはわからないとわたしに任せてくれたのだが。

「………もうひとつ上のサイズってありませんか?」
「すみません、今お召しの物が一番大きなサイズになります」
「…そうですか、ありがとうございます」
「ん、なまえ、どうした?」
「左之さん、体大きすぎます!」

窮屈で慣れない洋服を身に纏いながら豪快に笑う左之さんに、つられてわたしも笑った。





『お袋の味』




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