「左之さーん、朝ご飯!」
「おう、ありがとな」

頭のてっぺんに左之さんの唇が押し当てられ、すぐに去っていく。
左之さんが現代で暮らすと決めてから何ヶ月かが過ぎて、何もかもが1年前に戻ったようだった。変わったことと言えば、たったひとつ。

「どうですか?」
「自分で確かめてみるか?」
「もう、左之さんてば!」

わたしの頭を引き寄せてにやりと笑う左之さんの口に、作りたての卵焼きを突っ込んでやった。

「あふっ…あっつ、!」

愛してる、と言われたあの日からわたしは左之さんのものになった。自分で言うのは照れるが、左之さんに俺のものだと言われるのは存外悪い気はしない。



もちろんこの時代に生きると決めたものの、戸籍もなければ仕事もない。幕末では西洋化が進んでいたとはいえやっぱり洋服は窮屈そうだった。でも左之さんは弱音を吐くことなかった。
最近では主夫なんてのも珍しくなくなってきているので、仕事はわたしが引き受けて左之さんには家事全般を任せている。朝ご飯だけは例外、あれはわたしが左之さんに味噌汁を作ってあげたいから特別。あとはボランティアで公園の子供達にサッカーを教えている。…遊んでいるだけのように見えるけど、本人がボランティアだと言い張るからそういうことにしておく。洋服にもだんだん慣れてきたみたいで、一緒に買い物に行くとわたしの服を選んでくれることもあった。



「…まだ夢みたいです」
「ん?」
「左之さんがここにいる」
「俺は今まさに夢の中って感じだ」

嫁さんもらって所帯を持って、静かに幸せに暮らす。いつか聞いた左之さんの夢。

「……夢じゃないです。わたしはずっと左之さんの側にいます」
「…そうだな、未来の花嫁さん」

自然と瞼を閉じると、左之さんの暖かい手に包まれる。そしてゆっくりと口づけを交わした。

「…卵焼き、ちょっと甘かったですね」
「……お前が甘いんだよ」

150年越しの恋はきっと何にも負けることはない。だからこの先もずっと、左之さんの横で笑っていよう。そっと心に誓い、左之さんと顔を見合わせて笑った。





『エピローグ』




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