桜の花びらも落ちて、木々に緑が溢れる季節。学生や新社会人は、新しい環境に多少戸惑いつつも大きな希望を胸に秘めていた初々しい時間を過ぎて、うまく周りに溶け込み自らの居場所を模索し始める、そんな時期。



連日のように続く不当な残業にも今日だけは文句ひとつ零さず、むしろ笑顔を浮かべて家に帰宅した。そう、明日から、世に言うゴールデンウイークなのだ。

「10連休、だ…!」

リビングのドアを開ける数秒すらもどかしく、荷物を降ろすなりソファーへ飛び込んだ。

ぼすんっ

昨日洗ったばかりのクッションカバーからは柔軟剤の良い匂いがした。あ、なんだか眠いかも。

「………………いや、化粧は落とさなきゃ」

前に一度、飲み会帰りで酔いも酷く、そのまま眠ってしまったことがあった。あのときのわたしの顔はとても人前に晒せるものではない。



化粧落としてジャージに着替えて夜ご飯、うーん今日は何にし…

「………」

自室に向かいながらこのあとの有意義な時間の使い方を考え、ドアを開けた。瞬間、お世話にも香しいとは言い難い空気が漂ってきた。それになんだか赤いものが見えた気がする。

「…………え?」

半開きの襖に、まるでそこから入ってきましたとでもいうような体制でのびている人影。赤いと思ったのはどうやら髪の毛らしい。

「え、ちょっ…人!?」

何故わたしの部屋にいるのかとか、髪の毛真っ赤なのに全然痛んでないのは何でだろうとか、疑問は泡のように浮かんできたけど、とりあえず起きてもらわなければ。恐らく成人しているであろう男の人が、見知らぬわたしの部屋で倒れていたのだ、只事ではない。見ていても仕方ないので手を伸ばそうと近寄った。

「うわ、お酒くさ…」

よく見れば顔が赤らんでいる。状況が理解できないうえに酔っ払い相手…、もう心折れそう。



「あの…、すみません」
「…………」
「起きて…るわけないですよね、あのう」
「………………、」

そっと手を伸ばして控えめに声をかけてみたら、赤髪の人は寝返りをうって少し苦しそうに荒い呼吸をついた。…怖いです、怖いです無理!

ちらと時計を見るともう針はてっぺんを回っていた。どちら様だかわからないが相当酔ってるみたいだし、今起こすのも忍びないではないか。なにより怖い、ひたすら怖い。得体も知れないし、起きた酔っ払いに大声を上げられてご近所様に迷惑をかけるわけにもいかない。

「明日の朝、できれば昼くらいまでぐっすりお眠りください…!」

自分のベッドから掛け布団を引きずり落とし赤髪の人にかぶせてリビングへ戻った。わけのわからぬ恐怖と戦ったわたしはどっと疲れを感じて、結局ソファーに崩れ落ちるようにして眠ってしまった。





『押し入れからこんにちは』




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