左之さんがうちにやってきてからまるっと24時間が過ぎ、ゴールデンウイーク2日目の朝。

「あ、左之さんおはようございます」

当初の予定では最初の3日間はばっちり寝倒す計画だったのだ。それが今は目の前に挨拶を交わす相手がいて、ご飯を作るとおいしいと言ってくれる人がいる。苦手な朝も、当然頑張ろうという気にもなるものだ。

「ああ、おはようさん」
「早いですね、」
「そうか?いつも朝稽古してから飯食ってるからな、癖なんだよ」
「……朝起きられるのが羨ましいです」

目を覚ますと既に左之さんは起きていて、手持ち無沙汰で立ち尽くしていた。どうかしたのかな?いや、それよりも………昨日は何の考えもなしに布団を並べてしまったが、寝顔や寝起きの酷い顔を現在進行形で左之さんに見られていると思うと、今更ながら顔から火が出そうだ。

「じゃ、じゃあ、ご飯にしましょう!」



顔を洗ってから台所へ。昨日は和食(と呼ぶにはおこがましいくらい簡単な料理だったけど)を作ったから、今日はマフィンでも作ってみようか。でもやっぱり抵抗あるかな、

「左之さん、」
「ん?」
「何か食べたいものってありますか?」
「味噌汁」
「即答!?」

せっかくのリクエストだし、実を言えば他に材料もあまりない。余計なことを考えるのはやめて、昨日と同じような献立にすることにした。



「お味はどうですか?」
「ああ、うまい」

…くすぐったい。新婚ってこんな気分なのかな。考え出すと恥ずかしさでまともに左之さんの顔が見れなくなりそうだったから、わたしももそもそとご飯を口に運びながら気になっていることを聞いてみた。

「さっき言ってた朝稽古って、空手か何かですか?」
「いや、俺は剣道だ」
「へえ……、っ痛い!」

左之さんが剣道…、酔っ払ってるところと笑ってるところしか見たことないからいまいち想像できないけど、きっとかっこいいんだろうなあ。そう思っていたらししゃもが喉に引っ掛かった。

「ふっ、………大丈夫か?」

…やっぱり笑われた。

「だ、大丈夫、です!」

さっきまでのくすぐったい雰囲気はどこへいってしまったのか。そして何故わたしは大人しくしていられないの!



わたしが買い出しに行こうとすると、左之さんは荷物持ちがいるだろ?と言ってくれたのだが、昨日ショッピングセンターに連れて行くのだって一苦労だったのだ。残念そうな顔をされたけど、今日は留守番していてもらった。信号も知らないのだから、おちおち外を連れては歩けない。

「明日は近くの公園にでも行ってみますか?」
「…なまえは予定とか、ないのか?」
「ないです、今はちょっと長いお休み中なんです」
「そうか、…なら、よろしく頼むぜ」
「はい!確か押し入れの奥に弟の古い竹刀もあったと思うんです」
「弟がいるのか、いい姉ちゃんをもって幸せもんだな」
「………またそんな、滅相もないです…」

公園に竹刀。わたしの言いたいことが伝わったのか、左之さんの顔が明るくなった。たまにこういう可愛い顔をするから、いけないのだ。うっかりしそうになる。



「俺は槍なんだ」
「槍?」
「剣道って言っただろ?刀も使うけどな、槍のほうが性分に合ってんだ」

夜、眠りにつく前に静かな声で教えてくれた。男は刀に誓いをたてて信念を貫く、女子供を守るために命を張るもんだ、って。真剣な眼差しで、わたしに教えてくれた。
…こんなときに不謹慎だろうか、左之さんがかっこよくて涙が出た、なんて。





『大切なもの』




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