08


「ん…っ、んぅ、っは…」
「…なまえ、もっと口開いて」


それから次の授業が始まるまでの30分、私と仁王は屋上でずっと体を繋げていた。

対面で挿入され、ゆっくりと動かされる度に声が漏れる。
右手で私の骨盤を掴み、左手で後頭部を押さえながら、仁王は何度もキスをしてきた。
絡まり合う舌は、もはやどちらのものなのかわからない。口の端から唾液が伝うのも構わず、制服のシャツに染みを作るのも構わず、貪るようにキスをしていた。

途中で制服の隙間から差し込まれた手が背中を往復する度、たまらなくなって体が震える。


「…なまえちゃん気づいとる?キスすると締めつけてくるの」
「うる…さい…」


そんなことを言う仁王も、達しそうになるたびに一度動きを止めて、切なそうに目を閉じる。終わってほしくなくて私も大人しくしていたけど、三度目のときに悪戯心で自分から腰を動かした。


「…こら」


仁王は余裕なく薄く笑いながら、私の骨盤を強く掴む。感じてくれたことが嬉しくて、余計に腰を動かした。

仁王が深く息をはいて達するのを、避妊具越しに感じながら、両頬を手のひらで包んで唇を合わせる。


全国大会の決勝は、立海が勝ったけれど仁王は試合で負けてしまったと聞いた。

そのことと、あの日私に会いたいって言ったことは関係しているんだろうか。留学も、それに関係しているのではないのか。

だけど、私は仁王の彼女でもなんでもない。
そんなこと聞く権利も、引き留める権利も、無い。


4限の終わりを告げるチャイムが鳴る。


「…次の授業、何じゃ」
「…現代文」
「そーか」


なら仕方ない、って思ったでしょう。

後処理をして立ち上がろうとした仁王に抱きつく。
仁王は一瞬驚いた顔をして、再び腰をおろした。

私だってこういうときくらいサボれるよ。


「…眠い。ちょっと寝る」


そう言って横になった仁王の隣に、私も横たわる。
お互いの手は繋いだままだった。






そうしてその次の週、仁王は本当に行ってしまった。

仁王がいなくなった次の週の火曜。
私は体調不良を理由に、また美術をサボった。

だって仁王がいないのに、あの渡り廊下を渡る意味がない。
完全に腐った気持ちで保健室のベッドに臥していたら、美術の授業を終えた友人たちが見舞いに来てくれた。


「なまえやっほー!具合どう?」
「あー、大丈夫!サボり」
「へ?!なまえでも2週連続サボりとかすんだ!」


そこそこのボリュームで喋る私たちを見て、保健室の先生が注意をする。すみませーんと軽く謝ったみんなは、体を起こした私の手を引っ張って、共に教室へ帰ろうと促した。
たしかにまた現代文まで休むわけにはいかないので、仕方なく立ち上がる。


「ねえてか仁王くんいるじゃん?なんか留学行ったらしいよ!知ってた?」
「あーあ、もうこれであたしたちには幸村くんしかいないね」
「いや丸井くんもいるじゃん?」
「えーだって丸井くんすぐ彼女つくるしさ」
「丸井くんって、毎回全然長続きしないの何でなんだろーね。結構おもろいよね」


みんながおのおの好き勝手喋ってくれるおかげで、私一人が多少落ち込んでいてもあまり目立たなくて済んだ。そもそも、お互いあまり干渉しあわないところがこのグループの居心地が良いポイントだった。


「あ、そういえばさー、推しのグループ解散すんだよねって話したっけ?」
「え、マジ?!韓国のだよね?」


早くも話題が推しのアイドルの話に移り変わり、少しほっとする自分がいる。


「解散はキツいわー!!」
「そうなの…死にそうなんだが」
「それは悲しすぎるね…」
「でもまあ…解散っていってもさあ、二度と会えないわけじゃないしね。なんか幸せに生きててくれたらそれで良いかって思えてきた、最近」


えりちゃんの何気ない一言が、妙に腑に落ちた。
そうか。きっとそんな考え方もあるよね。

だったら私は、一刻も早く仁王への想いを断ち切る努力をしなきゃいけない。




12月になって、すっかり冬めいてきた頃、HRで進路調査表が配られた。

第一志望欄に迷わず立海大学、と記入する。
学部は正直文系ならどこでもよくて、とりあえず文学部と書いておいた。





「みょうじ、ちょっといい?」


クリスマス前の放課後、同じクラスの滝澤くんに呼ばれ、人通りのあまりない3階の廊下までやってきた。

滝澤くんは確かサッカー部で、少し離れたところで他のサッカー部の男子たちが何人かこそこそしているのが見えた。

なるほど、やっぱりそういうことらしい。滝澤くんはそこそこ女の子から人気があるのに、私なんかで良いんだろうか。


「みょうじって何か最近雰囲気変わったよな」
「そーかな?」
「うん、なんていうか、綺麗になったっていうかさ」
「ほんと?ありがと。eggモデルとか応募しよかな。あ、滝澤くんが応募しといてくれてもいいよ」
「しねーよ!てかなんでeggなんだよ、タイプ全然ちげーじゃん」


ふざけて笑い合ったあと、滝澤くんははにかんでこめかみを掻く。


「みょうじってさ、今付き合ってる人とかいるの?」
「いないよ」
「そんじゃさ、俺と…付き合ってくれない?」
「んー…」


承諾する理由はないが、特に断る理由もない。
そんなことを思ったとき、携帯が制服のポケットの中で震えた。

仁王からのメッセージだった。
内容は、向こうの天気の話。たぶん写真付きだ。

たったこれだけで一気に心づもりが変わる。


「ごめんね。今はそういうのいいかなって」
「そっか…。みょうじは、このまま立海大に進むの?」
「うん、そのつもり」


何故かほっとしたような表情を浮かべた滝澤くんは、「そっか、聞いてくれてありがとな」と笑った。
なんでか握手を求められたので応える。私より大きいけれど、仁王より小さい手だった。

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