「いや飲み過ぎやって。自分そんな酒強くないやん」
「うるさいなあ。謙也にはわかんないよね、『なんか思ってたのと違う』って男にフラれる気持ち。私元彼に、ヒートテックとかあんま着ないでほしい、萎える、って言われたんだよ!?ヒートテックは別におめーのために着てねーから!防寒だから、防寒!ほんとキモいんだよ死ね」
「なんやコイツめっちゃ喋るやん」
今日は高校の同窓会。美容院でトリートメントしてもらって服も新調して、スーパーななまえちゃんで登場したというのに。
「てかーーーなんで白石あっちのテーブルなの〜!ふつーに女の子たち群がりすぎ、腹立つ!わたしが一番最初に目ぇつけた男なんだけど、白石は!中1の4月ね!かっこよくない?って言ったら一気にみんながそんな感じになって」
「酒入ってこんな喋る女初めて見たっちゅーねん。お前ホンマ、酒飲むの金輪際やめたほうがええで」
「ね、謙也悔しくないわけ?女の子取られてるよ。こんなシケたテーブルいても良いことないのにね」
「ホンマにな!お前が俺の裾引っ張るんやめてくれたらすぐにでもあっちのテーブル行くんやけどな!」
「ごめん嘘、行かないでお願いします。謙也をエサにしてるから今」
白石ー、ほらほらあなたのニコイチの忍足謙也はここだよー。
「いやお前…ホンマ馬鹿正直すぎるって、もうちょい隠せや」
「ねぇ謙也もヒートテック萎える?」
「いや別に、お前の言う通り防寒やん」
「私まじで謙也って好き。まあ白石のほうが好きだけど」
「うざっ」
白石、来ないかな。
第一ね、高校のときはグイグイ来る女の子きらいって言ってたじゃん。それなのに何だ、社会に出て慣れましたってか。白石が好きなくせに嫌われまいと、グイグイいかずに大人しくしていたわたしが馬鹿みたいじゃないか。
謙也は、酔いの回ったわたしがこれ以上お酒を飲まないように、監視役として派遣されたらしい。ふん、知るか。ヤケ酒してやる。
と思ってそこらへんにあったジョッキを引き寄せたとき、隣のテーブルの白石が席を立ったのが見えた。そのままこっちに来ないかな、と頬杖をついて見つめていたら、何と彼は本当にこっちにやってきた。
「よ、みょうじ。自分さっきから飲みすぎとちゃう?」
「しらいし…」
「ん?どないしてん」
「白石が来た…謙也ぁ、白石来たよ〜〜エサ役ありがとーー!」
「ハイハイ良かったなあ。どっちか言うたらベロベロすぎるお前自身が引き寄せたんやで」
改めて見る白石は、それはもうアホみたいにカッコよかった。スーツがこんなに似合う男性が世の中にいるだろうか。
感激して余計にお酒が進む。
「アカンて。これは没収。自分はそこのチェイサー飲みや」
「あー」
白石はわたしからジョッキを奪い、半分以上残っていたそれを飲み干した。
そんなとこもカッコよくて無理だ。
白石と話すことが出来た。それだけで今日来た意味があるというもの。ミッションコンプリーツです。
「みょうじはどうなん、仕事」
「楽しいけど社畜だよ」
「そっか、広告やもんな」
「えっ白石、わたしの仕事知ってたの」
「知ってちゃアカン?」
「あーんちょっと謙也聞いた?この切り返し、爽やか!レモンの香り!」
謙也はすこぶる呆れた視線をわたしに送ったあと、面倒くさいわたしを白石に押し付ける形で退散してしまった。
そうなのだ、わたしという女は酔うとめちゃくちゃ面倒くさくなるのだ。あーもうこれ明日起きた時に大後悔祭り決定だな。記憶無くなるタイプなわけではないので、毎度激鬱になるんですけども。
「白石は仕事どお?製薬会社だっけ?」
だっけとか言って、めちゃくちゃちゃんと覚えてて草です。
「せやで。膨大な毒の知識は特に役立たへんわ。技術職やったらまた違ったかもしれへんけど」
「白石、総合職だもんね。ていうかまた男前になった?なんかクスリでもキメてないとおかしくない?」
「なんでお前は素直に褒められへんのや」
そう言って白石は眉をハの字にしながらも楽しそうに笑う。
ああ、好きだなあ。学生時代もこんな感じで、異性らしさなんて微塵も見せることができずに終わった。男前とかそういうことはたまに言うけど、あくまでも冗談っぽく。
変にそういう仲になっていつかフラれるくらいなら、友達の方が断然いい。
白石を拝めなくなったら、わたしは生きていけないんじゃないかってくらい、ずっと昔から彼だけを見てる。
「二次会行くか?」
「うーん、悩んでる。白石は?」
「俺は明日早いから行かんことにした」
「そっか」
じゃあ、わたしも行かない。
「みょうじ」
「うん?」
「その、胸元気ぃつけや。さっきから危ないで」
白石が珍しく気まずそうにしている。いつも余裕な顔している彼が。
そう思ったら、わたしの嗜虐心が目覚め始める。
「えっ見えた?やん、白石のエッチ」
「エッ……しゃあないやろ、見えるんやから」
「白石が照れてる!珍しい、スーパーレア。焼き付けとく」
「…男をからかうモンやないで」
大きな骨ばった男性の手で、両目を覆われる。そこで、ようやく気がついた。あんまり顔に出ないだけで、白石もちょっと酔っているみたいだ。だっていつもはこんなことしないもの。
お互い酔ってるなら、良いんじゃないの?とわたしの中の悪魔が囁く。
気づいたら、視界を奪っていた彼の手を絡めとり、掘りごたつの下できゅっと握りしめていた。
握り返してくれたところを見るに、やはり彼もそこそこ出来上がっている。
「…何してんねん、みょうじ」
「白石こそ握り返してんじゃん。ほどいてもいいんだよ?」
手を絡めたまま視線を送る。ああーかっこいいめっちゃすき、すごいすき。
そんなわたしを見て、白石は小さく息を吐いて苦笑いした。
「みょうじって、酔ったらいつもこうなん?」
「なわけないでしょ」
絡み酒はするけれど、それでも当然男の子にこんなことしません。
でもまあ、やりすぎたかな。いくらわたしだって、白石にキモがられたいわけではない。離そうとすると、白石はぐっと手に力を入れた。
「何してんねん」
「いやこっちのセリフなんだけど???」
「もうそろそろお開きやんな」
「そーね」
「みょうじは……二次会行かんやんな?」
「はーーー??白石ってずるいよね、そういうとこほんと嫌いだよ」
好きが高じて、逆に嫌いだよ。
「嫌いとか言わんとってや。こういうときのスマートな誘い方わからんねん」
ねえ、まじで?
大丈夫?わたし今酔ってるんだよ、酒を言い訳にしたわたしは何でもできちゃうんだよ。
「……一個良い?」
「なに?」
「彼女、とか、いたりする?」
そう尋ねると、白石は首を横にふるふると振った。
「嘘つくな、いないわけあるか」
「いて、ホンマやもん」
「もんとか言うな、うざ。可愛くてムカつく」
急に白石がわたしの肩に頭を預けてきた。ぎょっとしていると、悪戯っぽく彼は言う。
「飲み過ぎた、アカンこれ二次会行けないから家が近いみょうじに送ってもらうわ、っていう体で行くか。協力してや」
ざけんな。自分で言うのもなんだけど私のほうがベロベロだわ!家も全然近くないし!
「嫌い、白石」
「おおきに。俺からも一個ええ?」
「何」
頭をわたしに預け、こっちを見ないまま白石は続けた。わたしはというと、深酒+白石でとにかく動悸がやばい。
「俺のこと男として見とった?」
「は」
「高校んとき」
「見てないわけなくない?」
「……ホンマか?」
「ほんとずるいムカつく、気づいてたくせに」
「俺も」
「え?」
「俺もやから」
何に対する俺も?と聞く前に、白石はわたしに寄りかかったまま眠ってしまった。
……どうせ明日の朝に激鬱になるならさ。この先の人生で事あるごとに思い出して、一生の思い出になるほうの選択肢を取ったほうが、いいよね?
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