06

最近ハラハラしてばっかりだなとふと思ったけれど、それって男子テニス部の人たちと絡む機会が図らずも増えてしまったからなんだろうか。
まあ、と言っても主に幸村くんだけで、あと丸井くん桑原くんとちょっぴり話したというだけなんだけど。

あとはやっぱり試験のせいで心中穏やかじゃなかったっていうのもあるが、そんな憂鬱な試験も無事終わり、立海大付属高校はもうすぐ夏休みに突入します。


「遥、今回は何個?」
「…2個」
「お、前回より減ってるじゃん」
「でもでもでも、夏休みのスタートが人より4日も遅れるってことだもーん!」

さいあくー!と叫ぶ遥だが、去年もまったく同じ光景を見た。
私はこう見えて意外と勉強ができるので、赤点どころか平均点以下の教科も無い。

「それにしてもさ〜なんか予想してたのとちがーう」
「何が?」
「夏休みにデートする約束のひとつやふたつ、取り付けてたりしたら面白かったのになあって」
「え、遥彼氏とうまくいってないの?またメンテナンス期間?」
「ちがうちがーう!わたしじゃなくて、なまえの話!」

ていうかメンテナンス期間って呼ぶのやめてくれる!?と遥は怒るが、実際彼女らは喧嘩したり倦怠期が訪れたりすると今までのイチャラブっぷりが嘘のように突然互いに干渉しなくなる。
その稼働停止時期を勝手にメンテナンス期間と呼んでるんだけど、我ながらなかなかに素晴らしいネーミングセンスだと思っている。本人は嫌がるけれど。

「まあでも結構合理的だよね、あれ。だから続くんだろうなっておもうし」
「別に打ち合わせして決めたんじゃないからね、なんか気づいたらいつもああなって、気づいたら元に戻ってるの」
「へえ〜」

素直にすごいなと感心していると、しばらく得意気にしている様子だった遥は、途中でハッと何かに気づいて私をじっと見つめた。

「それはどうでもよくて、ほんとになんも無かったの?」
「うわ、せっかく意識そらせたと思ったのに」
「相手はあの幸村精市なんだよ!?なまえから積極的に行動しないからいけないの。女は待ってるだけじゃだめ!」
「いや私、別に幸村くんのこと好きとかじゃないんだけど…」

彼はみんなが言うような人形でもサイボーグでもなくて、みんなと変わらない普通の高校生だ。
それはわかったわけだが、だからといって好きになるにはあまりに彼のことを知らなさすぎる。もちろんかっこいいし尊敬はできるんだけど、今のところそれ以上の気持ちは湧かない。

「あ、すきぴからだ」
「はいはい、すきぴは何て?」
「『今から部活!気合入れてがんばるな!』だって。なんでこんな可愛いの?わたしの彼氏。なまえも早く彼氏作って一緒に恋バナしよーぜ」

言われてみると、中学の頃は好きだの嫌いだのはあったけれど、高校に入ってからら恋愛のことを考えたことがなかった。
遥を見ていると、やっぱり恋愛は楽しそうだし、いいなあと思う。

誰かいるかな…と半ば強引に色んな男の子を思い浮かべてみて、最後に幸村くんのことを思い浮かべてみた。
そうだ、彼からは何かを感じ取れない。他の男の子からは感じ取れる、何かを。
一体、なんだろう?

「難しいなあ、幸村くんは」
「俺がどうかした?」
「ヒッ!」

突然聞こえてきた声に驚いて奇声をあげてしまった。
振り返ると、幸村くんは教室の入り口に立って不思議そうに私たちを見ていた。

遥との会話聞かれた?と一瞬焦ったけれど、この数分間私は一人で静かに考えを巡らせていたし、遥は携帯をいじっていたわけだから大丈夫なはずだ。

「ごめん、驚かせたかな?まだ教室に残ってる人いるんだなって思ったら、みょうじさんたちだったから」
「女テニのミーティング待ちなんだ!あと20分くらいで始まるよ」
「そうなんだ」

不意に、幸村くんが遥に視線を移した。
なんだろうと思っていたら、遥が慌てたように先に部室行ってるね!と席を外したので、なるほどそういうことか、と納得する。

「今のは我ながらちょっと感じが悪かったかな。伊波さんにあとで謝らなきゃ」
「ああ、大丈夫だと思うよ」

ちょっとニヤニヤしてたしね、遥。

幸村くんは持っていた鞄を置いて、私の向かいの机に寄り掛かった。
随分身軽だけど、今日は男テニもミーティングだけなのかな。

「あのね、ちょっとみょうじさんに聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
「うん。伊波さんのことなんだけど。誰か付き合っている人とかいるのかな?」
「うん、いるよ。付き合ってもうかなり経つよ」
「あーそうなのか、なるほど」

幸村くんは、少し残念そうな表情で視線を宙に向ける。
そんな彼をしばらく見ていたら、先ほど覚えた違和感がすーっと無くなっていくのに気がついた。

ああ、だからか。私が幸村くんに覚えていた違和感とはつまりそういうことで、たった今謎が解けた。

「…幸村くん、なんかあったら私が相談に乗るよ?」
「えっ?」
「自分で言うのもなんだけど、この場合私が一番適役だと思うからさ!」
「?うん」

頭上にハテナを沢山浮かべながら頷く幸村くんに、私はにっこり微笑んだ。

幸村くんに感じ取れなかったもの、それは年相応の男の子らしさ。かといって彼は女友達に近いとも言えない、だからこそ生まれた違和感だ。

だけど今、私は知ってしまった。
彼も高校生男子で、人並みに女の子を好きになるんだという事実にちょっとドキドキしている。

私と挨拶を交わすとき、幸村くんは遥に積極的には話しかけていなかったけれど、もしかしたらその実奥手で、本当はずっと遥と喋りたかったのかもしれない。

「幸村くん…連絡先交換しよう!」
「あ、うん、それ俺も言おうとしてたんだ。先に言われちゃったね」
「長期戦だけど頑張っていこうね!私も微妙な立場だけど、応援するから!」
「…みょうじさん、さっきから何か勘違いしてない?」
「ううん、大丈夫!」

そういう噂が一切無い幸村くんだから、そういうことを悟られたくないのはわかる。ましてや相手は彼氏がいる子だもんね。

いまだ訝しげな幸村くんに手を振って、私は教室をあとにした。
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