05

「ねーなまえちゃんあの噂マジ?」
「噂?なに?てか希美、ごはんつぶめっちゃ飛んでる」

私の言葉に、我が女テニのムードメーカーの希美はごめーんと返事をしながらごはんつぶを回収する。
改めて何の話かを聞けば、希美は目を輝かせて言い放った。

「あの幸村精市と付き合ってるって噂!」
「ハァ?え、誰が?」
「なまえちゃんが!」
「アハハ!?うける」

希美の言葉に女テニの他の子たちもエエエ〜!と反応しだす。ここが部室じゃなくて良かった…先輩とかにも共有しちゃったら余計面倒だし。

「えっそうなのなまえ?!聞いてないんだけど!」
「いやいやいや、よく考えて?ガセですってさすがに」
「でもほら、火の無いところになんとやらって言うし〜」
「ちょっと遥、面白がってるでしょ?」
「えへへ」

遥は冗談だよ、とニヤニヤ笑う。
一番事情を知ってるくせにコイツ!

「わたしは、2人で授業中に廊下で逢い引きしてたって聞いた〜」
「お互い教科書をロッカーから出してただけです!」

そこで遥がすかさず「いや〜あそこで担任が幸村って口にした時はクラス中の女子がざわついたね」と半笑いで呟く。

「ハァ〜ほんと担任恨む、色んな人にめちゃくちゃからかわれた」
「よりによって幸村くんだしね、噂の相手が」
「そうなの…いくらなんでも恐れ多いよ」

彼は学校一のモテ男、しかも今までそういった浮ついた話が一切無かったらしい真っ白いお方なのだ。
2週間ほど前に初めて話しただけの、それも平々凡々すぎる私とこんな噂が流れてしまっては、良い迷惑だろう。

「その噂、面白がって広めないでね」
「え〜超面白いのに!」
「王子に嫌われることで、女テニの部費が男テニにまわされたりとかしたらどうするの」
「あは、それはやばい、幸村くん何者?」
「なんかわかんないけど、本気出せばできちゃいそうじゃん!」

そう主張すると、みんなは各々しばらく考えたのち、「できそう…」「やってのけそう…」と呟いた。中等部組の真剣な表情から察するに幸村くんて本当にすごい人なんだなと改めて納得する。

まあでもガセでも幸村くんのこんな噂が流れたの初めてだよ〜やるね〜と希美は楽しそうだけど、こっちはちっとも楽しくない。

「希美、その噂って結構回ってるの?」
「いや〜まだそうでもないとは思うけどね〜」
「良かったー!!」

ご飯を食べ終えて時計を見ると、授業まであと20分。
いつもお昼ご飯は、女テニ5人くらいで中庭で食べている。この5人は特に固定されているわけではなく、時には4人になったり6人になったりするし、人も変わるし割と変則的だ。とは言っても遥は同じクラスだから大体一緒なんだけど。

「はー試験やだなあ」
「でも今回から文系理系分かれるから、科目少ないの嬉しいよね」
「もう物理やらなくてすむ〜!」

希美が箸を持ち上げて嬉しそうに叫ぶ。高々と天を仰ぐミートボールが今にも落ちそうでハラハラしていたら、エミコが秒で奪って咀嚼していた。
ミートボールを巡って争う2人を尻目に、遥がわたしに話しかけてきた。

「ね、今日の放課後一緒に勉強しない?」
「いいけど、途中勉強に飽きて私に話しかけまくって大富豪しよー!とか言うのやめてね」
「えーだってなまえ、大富豪弱すぎて面白いんだもん!あ、待ってすきぴから電話」

遥は集中力が本当に続かない。テニスでは続くのに、なぜそれを勉強に活かせないのだろう。

遥は彼氏と電話始めちゃったし、あいつらはまだミートボールでバトっている。
帰ろうと思いながらお弁当を片付け立ち上がると、エミコが希美を制しながら「なまえ、」と私を呼び止めた。

「なに?ミートボール?」
「違う。もし仁王雅治に変なこと聞かれても、彼と目を合わせちゃダメ」

あくまでも真剣なエミコに「…目合わせちゃダメって、メデューサか」とツッコミを入れて、私は一人教室に向かった。



試験まであと3日、現代文と古文は手をつけていなくてやばいからどっちか今日やるとして、土日で数学と英語追い込みして、あっ英語まだまとめ終えてない。

「おい」

あれ?待って、数学も昨日授業でやった分野が残ってる!

「おいって、えーっと名前なんだっけ」
「わあビックリした!」

肩を叩かれて振り返ると、そこにはネクタイを緩く締めた丸井くんの姿があった。
予想外のことに、おそらく何とも言えない顔をしてしまったのだろう。少しムッとされてしまった。

「んだよその顔」
「ご、ごめんなさい…?!」
「あーお前さ、こないだこれコートに忘れてったんだよ、ほら」

そう言って差し出されたのは私のヘアゴム。
無くなっていたことに全く気がつかなかった。

「割と良いやつっぽいし大事にしろよな、えーと」
「みょうじです」
「おう、それそれ!俺は丸井だから!シクヨロ」

知ってるわ、丸井くんのこと知らない奴とかこの学校にいないわ。
ありがとう、とお礼を言って丸井くんと別れる。

ん、待てよ、もしかしてこれ渡すためにわざわざD組の前で待っててくれたの?
それはそれで、見た目にそぐわなすぎて怖くない?
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