04

「なぁ幸村くんて、あんなに女子と喋るキャラだったっけ?」

丸井の言葉に、その場の誰もが待ってましたとばかりに俺に視線を向ける。

「やだなあ、俺だって普通に話すときは話すよ」
「ふーん、じゃあ俺が見慣れてないだけか」
「いや丸井、お前の感覚は間違っていない。俺も少々驚いたぞ、精市」

そう柳が言うと、丸井はだよなあ!となぜか得意気になる。
うーん、とネクタイを結びながら我が身を振り返ってみる。

「あまり深く考えたことなかったな」
「みょうじは女テニなんだよな?にしてはあんまり見たことない気がするが…。途中入部なのか?」
「ああ、彼女は高校受験で入ってきたんだよ、ジャッカル」
「なるほど、そりゃあ知らないわけだ」

ジャッカルが納得したように首を振ると、丸井が目を丸くした。

「え、ジャッカルお前って、女テニのメンツみんな覚えてんの?」
「さすがにレギュラーはなんとなくわかるぜ」
「へえ、俺全っ然わかんねー」

可愛い子は覚えてるけど、と呟く丸井にジャッカルが苦笑いをする。
真田だってきっと女子部は部長と副部長くらいしか把握していないだろうし、俺すらあと2、3人の顔がわかる程度だ。

「しかし幸村、お前があの場でみょうじにジャッカルと打つよう提案するとは思わなかったぞ」
「だって真田、彼女すごく打ちたそうだったじゃない」
「あーあ幸村くんてば、そういうことして惚れられて困ることになっても知らねーよ?」
「丸井はすぐそっちの方向にいくんだから」

俺はそんなつもりは毛頭無い。
ただ、みょうじさんが同じ小学校出身だという理由で親近感を覚えてからというもの、姿を見るとつい声をかけたくなってしまう。彼女が見る度にいつも面白いというのもあるんだけど。
それと彼女には、懐かしさ以外に思い出させられるものがあるのだ。
そうだ、彼女はやっぱり…。

「まー幸村くんも男だしなあ、そろそろなんかあってもいいんじゃねえかって俺も思ってたとこ」
「それについては同感だ」

丸井の言葉に柳が同意する。

「おい丸井、その何かというのは、」
「あーはいはい、真田にはまだはえーよ!な!」

このくだり、前に赤也に彼女ができたときもしたなあと思い出す。真田が出てくるとややこしくなるからな、まあそれが面白いんだけどね。


なんだかんだ言いつつ着替え終え、各自教室へ向かう。
2年のクラス替えでは俺たちはうまい具合に振り分けられたけど、まさか仁王と柳生が同じクラスになるなんて笑えた。柳生の苦労が目に見えて。


「おはよう、幸村くん」
「おはよう」

ほら、普通にクラスの女の子とだって挨拶は交わしているつもりだ。
丸井たち、俺が女の子と仲良くしているのがそんなに珍しかったのだろうか。俺だってそのくらい普通にあるのに。

「なあ幸村」
「あ、おはよう吉田。どうしたの、世界史のノートなら家だけど」
「えっまじ、頼むから明日写させてくれ!ってそうじゃなくて」

クラスメイトで席が近い吉田はコロコロ表情を変えるところがちょっと赤也を彷彿とさせる。

「お前さあ、みょうじさんと伊波さんと仲良いの?」
「え、どうして?」
「こないだ喋ってんの見たからさ」

ってことは伊波さんというのはみょうじさんの横にいる子か、と納得する。みょうじさんとはたまに喋るけど、と答えると吉田は少しがっかりしたようだった。

「みょうじさんがどうかした?」
「いやそっちじゃなくて、伊波さんのほう」
「へえ、吉田ってそうなんだ」
「やー俺、伊波さんみたいな垂れ目の子好きなんだよね!でも俺面識ないしさ、どうしたもんかなーって思ってお前に聞いてみたんだけど。みょうじさんのほうなのか〜うーん」
「役に立てなくて悪かったよ」

頑張ってね、と笑うと吉田はすがるような目を向けてきた。
まるで、手伝ってくれないのかよ、とでも言いたげな。

「そんなに気になるなら、普通に話しかけてみればいいんだよ」
「できねーよお前じゃあるまいし」
「全く、俺ってどういうイメージなのかなあ」

真逆のことを言ってくる人もいるのに。
こうも違うと、もはや自分でわからなくなってくる。

「じゃあ今度、みょうじさんたちと喋る機会があったら吉田のこと話してみるよ」
「や?!無理じゃん!?不自然すぎるだろ!」
「そうだけど、でも喋りたいんだろ。伊波さんと」
「まあそりゃそうだけど…」
「…君って意外とシャイだったんだね」
「うるせー!お前が余裕すぎんだよ!」

そうかな?と呟くと、吉田は溜息をついたのち、お前はそういう分野興味なさそうなのに何だって余裕なんだ、とうなだれた。

「まあでも、俺たちだけで話してても埒があかないし、とりあえず一番近い人に相談するべきなんじゃないかな」
「みょうじさんか?」
「そう、なにかアドバイスしてくれるはずだよ。良い子だよ、彼女」
「…幸村お前さあ、」
「なんだい?」
「いや何でもない」

もう一度聞き直してみても吉田は、いやいや何でもない、と返すだけだった。


なんだろうと考えていたら、気がつくと1限が始まってしまっていた。
俺としたことが、世界史の教科書をまだ廊下のロッカーから出していない。

先生にその旨を告げると、幸村が珍しいな、とすんなり廊下に出させてくれた。

そのとき、隣のクラスからも誰かが出てきた。
俺とおんなじように取り忘れたのかな、と何気なく視線を移せば、そこにいたのは噂をすればみょうじさんだった。

「みょうじさん!」
「へっ?」

声をかけると、みょうじさんは相当驚いたのか、俺を見て固まってしまった。

それが面白くて、俺は悪戯心でみょうじさんの近くまで移動してみた。さらに驚いた彼女は、こちらから見てもわかるくらいかなり焦っている。
やっぱり彼女はいつも面白い反応をする。

「きみも教科書取りに来たの?」
「う、うん。幸村くんも?」
「そうだよ」
「幸村くんでも取り忘れたりするんだ」
「ぼーっとしていたら1限が始まっていてね」
「私はあのあと着替えてたら遅くなっちゃって」

ほのかに制汗剤の匂いがする。
俺が使っているやつと同じな気がする、と考えて、何だか自分が気持ち悪いなと苦笑した。

「え、どうしたの幸村くん」
「いや、なんでもないよ」
「ていうかわたしたちそろそろ戻らないと、」

怒られる、とみょうじさんが言いかけたところでD組のドアがガラッと開いた。
D組の担任が教室からにゅっと顔を出す。

「みょうじ〜おまえ教科書取るのにどんだけ…って、幸村か?何でここにいるんだ、早く自分のクラスに戻りなさい」
「ああ、すみません。それじゃあねみょうじさん」

みょうじさんはコクンと頷いて、なぜか青ざめながら自分の教室に戻って行った。

考えてみたら、先生に注意されたのって初めてだ。
なんだかそれが可笑しくて、一人で小さく笑いながら自分の教室に戻る。
席に着くと吉田と目が合って、俺は不審な目を向けられたのだった。

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