よろしく、と差し出された手。優しげな笑顔。
  それだけで、こんなにも、惹かれてしまったのだ。

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  生徒会書記の伊河 健(いがわ たけし)は自他共に認める、人見知りかつ口下手な男である。しかし、生まれたときから内向的な訳ではなかった。
  伊河を変えてしまったのは、彼がまだ九歳だったときの出来事。彼には、親友と呼べるほど仲のよい少年がいた。ところがある日、些細なことで二人は喧嘩をしてしまう。互いに譲らず、悪口を言い合い、謝るのを後回しにしてしまった。よくある話である。
  しかし、それを伊河は酷く後悔した。数ヶ月後、彼の友人だった少年は、遠くへ転校してしまったのである。……原因は、伊河に好意を寄せる者たちによる、陰湿な虐めだった。

――お前のせいだ。

  転校する前日、そう言った少年の顔を伊河は忘れられない。痛々しい痣だらけの顔に、強い憎悪の宿った瞳。
  自分が彼を罵らなければ、こんなことにはならなかったのかもしれない。そう思ったが、もう手遅れだった。一度口にしたことは取り消せないし、失った絆は取り戻せない。
  伊河は何度も何度も自分を責め、そして、いつしか他人と会話することに酷く怯え、気を遣うようになった。必要以上に考えながら話す彼の言葉は途切れ途切れで、酷く不明瞭なものとなってしまった。
  月日が流れ、高等部の生徒会書記となってからも、彼は殆ど会話をしようとしなかった。それは、彼と関わっても安全な筈の、役員達に対しても同じだった。生徒会長や会計には先輩相手ということで萎縮していたし、同級生の副会長も、笑顔で毒を吐くところが苦手だった。
  自分には、誰かと仲よくする資格なんてない。そんな風に考えるまでになっていた頃だった――この学園に転入生が、黄藤輝がやってきたのは。

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