現実と言ノ刃
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「…うん、治らないんだよこの傷。」
戻ってきた世界、日常。癒えない傷痕、記憶。思い出すのは形のない刃。
『擬人化なんて、ただの人間の皮を被った化け物なんだろ?』
過去は突き刺さったまま。閉じ込めた感情は風化していく。
本当の桜の季節。雪解けより先の時期は出会いと別れの季節と呼ばれていた。
「初めまして、うちの名前は───。」
それは鈍くも包み込むように光る、柔らかく優しい太陽との出会い。救いのようなそれにすがり付いて、彼は宝物だった古い斧を捨て去った。
それでもやはり、忘れることは出来ない空白の位置。譲りたくなかった場所。空っぽになった心を埋めるものとは。
「嫌なの、その存在全て。 間違われただけじゃ済まない、…何者なの?」
理不尽に言い渡された言葉。再び異端と呼ばれる世界。現実主義に重すぎる枷。望まれなかった子、潜めた影。
拒絶、嫌悪、相容れない仲。唯一の存在はけなし合いで荒み、進んでいく。
「奇遇だな、私だってお前の存在が心底不愉快だと思っていたんだよ。」
世界は彼女に気づけなかった。気づいたのは皮肉にも、最も嫌悪する存在だったとは誰が知っていようか。
噛み合わない歯車
(どうして私はまたこの世界に呼ばれたのだろうか)
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