現実と言ノ刃
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ピチューに全てを打ち明けてからというもの、どうにもピチューの様子がおかしい。打ち明けて、よそよそしくなったり気まずくなったりするものならまだ私だって理解できたさ。今まで黙っていたんだから。だけどそうじゃない。その逆だ。



『静奈、外行こうぜ。』

「…この寒いのにか?」

『いいだろ、ほら!』



半ば強引に私の足をぐいぐいと引っ張るピチューはいっそ無理やりにでもと考えたのか擬人化をして私の腕を引っ張った。こうして触れていると、ピチューの体温が伝わってきてあんまり好きじゃない。

こういうのも、最初は空元気なのか、と疑ったりもした。でもそれは違ったみたいで、前よりも自分の感情を優先させることを除けば変わらないのだ。何も。それが逆に違和感を覚えてしまっておかしい、と感じてしまう。

私を引っ張っていくピチューの顔は前にいるから見えないけれど、きっといつもみたいな少し似合わない強気な表情を浮かべて自信ありげに進んでいるのだろう。

外に出ると一気に突き刺すような風が吹き荒れていて、思わず身を震わせる。それに気付いたのか一瞬こちらを向くピチューの表情は眉尻を下げているもので。想像と違っていたそれに目を見開いた。隠すようにまた前を向いて私を引っ張るピチュー、だけどその表情を見た後でも背中の雰囲気は変わらなかったのだ。



「ほら、静奈…あれがこの町のシンボル、ハクタイの像だ。」



確かここに初めて来たときに見た、あの大きな像。遠くから見てもその存在感をありありと出しているそれは近くに来てみると圧倒的なそれに瞬間、息を止めてしまうほどだった。これもポケモンなのだろうか。時間を忘れてしまいそうなほど眺めていられそうだ、とぼんやり考えた時にピチューが解説を始めた。



「これさ、すげー強そうな雰囲気だろ?なんでもシンオウの神様を合体させた形らしいんだ。」

「…神様?」

「そう、このシンオウ地方には時間と空間、それぞれを司る神様がいる。名前は忘れたけど。」



時間、空間。その言葉が私の脳内をぐるぐると渦巻きだす。もしかして、その神様とやらの力を使って彩天は。いや、止めよう。私は浮かんだ考えをすぐに誤魔化した。こんなこと考えていたって仕方ないんだ。私が知ることじゃない。



「…俺さぁ、もし時間がずれて、空間も違って、それでお前と出会ってたらどうなってたんだろうな。」

「…どういう意味だ?」

「お前がもし、…こっちの世界に初めからいたのなら、…また違ったのかな。」

「っ…!」



ゆっくりと私の方を振り返ったピチューの表情は切なげに、悲しそうに。大事な者を見るような目、それは私も知っている。知っているからこそ、どうして私にそんな目を向けるのかがわからないよ。


そして、その中にもう一つの感情が混ざっていたことを私は気づかないフリをした。


言葉に詰まった私を見て、いやに大人びたように苦笑したピチューはいつの間にか繋がれていた手を少し力強く握り直して、桜見に行くぞ。と言った。



「…実光、私は…。」

「いい、別に無理やり聞きたくはねぇよ。」



嘘だ、と言及することもできずに私はただピチューに引っ張られるだけだった。

中途半端に自分を優先させるなら、最初からしなきゃいいのに。どうしてコイツはこうも不器用なんだろう。そして私はコイツに何を求めているのか、そんなこと自覚もしたくない。

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