現実と言ノ刃
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シャワーを浴びて、適当な私服に着替える。ほんの少しの気分転換に出掛けようと思ったのだ。軽い準備体操をして、首を捻ればパキッと小気味いい音が鳴った。
目的地は家の近くにある神社。小さい時からよく行っていた場所だ。
「っし…走るか…。」
家の外に出ると、肌を刺すような風を全身で受け止める。真冬の早朝は他の時間帯よりも断然寒い。辺りを見渡せば所々に霜が降りていた。
決してオーバーペースにならないように、心地よいペースで走る。徐々に暖まってきた体 に先程まで肌を刺していた風も苦にはならなくなってきたのだった。
「はぁ…っ…変わらない、な。」
そして辿り着いた神社は最後に来た時と変わらない姿だった。変わったところといえば冬の衣装を身に纏っているところだろうか。鳥居に降りている霜がそれを思わせた。
静奈は神社に入ると、迷うことなく足をとある場所に進めた。途中、小走りになって転けかけたのでゆっくりとした歩調で。
「…ん、ここも…変わらないな。」
見つめた先にあるのは一つの祠。古びたそれは静奈の記憶にあるものと何一つ変わらない。どこか安堵感に包まれながら、少しだけ胸が締め付けられる。
「…一人で来るのもいいけど、やっぱ一人だと静かだな…。」
キュッと眉を寄せて目を瞑れば、両隣にここにはいない二人がいるような気がした。常に好戦的だったアイツと、慕ってくれた小さいあの子は今どうしているのか。
そっと祠に触れてみると、祠に被っている雪が手のひらの温度で溶けていく。
「…何か、変わらないかな。」
ポツリと呟いてもなにも起こらないのは百も承知。だが呟かずにはいられなかった。それだけ、斬新なことに飢えていた。
そりゃあ幼少から稽古をして、常に挑戦を申し込まれて…そんな毎日から一気にそれらが無くなったんだ。物足りなくもなる。
思い出を掘り出すように優しく祠を撫でてみると、少しだけ祠がカタリと動いた気がした。
「……ん?」
不思議に思って祠を見るも、何もなかったので首を傾げる。
まぁ、きっと古いからガタが来たのだろう。そう思って気に止めないことにした。
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