現実と言ノ刃
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輝く閃光、四季を見下した冬の桜。脳裏に焼き付くように今も鮮明に思い出せる情景。それは私の知らなかった世界。

世界を見るのは、こんなにも心がざわめくものなのか。彩り鮮やかな世界は私には縁の無いものだと思っていた。いや実際縁は無かったのだろう。だけどそれを無理やり繋げたのはきっと。



「……起きたのか、ピチュー。」

『…ん、…ねむ………。』

「だから昨日早く寝ろとあれほど言っただろう…。」

『うっせー…俺がおきたかったんだよ…。』



掠れた声で舌足らずな口調。ごろりと寝返りを打ったピチューとそれを眺める私。今、ここはセンターの部屋の一室だ。ピチューと私は現在センターに寝泊まりしながら日々を過ごしていた。

泊まるためのトレーナーカードは無かったものの、何故だかクレジットカード擬きは入っていた。それで今、生計を立てているというわけだ。



「さて、今日は何をするんだ?」



昨日は散々森の探検に付き合わされた。店で買った虫除けスプレーたるものに助けられたので心配することは何もなかったが足がくたくたになったのだ。ピチューと一緒にいるようになってからというもの、ほぼ毎日のようにどこらしらに出掛けているような気がする。

しかしハクタイシティからは移動していない。理由を聞いてみてもはぐらかされるが、ちびたちから一番近い町だ、離れたくない想いもあるのだろうということで勝手に納得した。



『…あー、…あの、だな。』

「ん?」



どこか遊びにでも行くのだろうかと思ったがどうやら違うらしい。やりたいことはやる、自分勝手が代名詞のようなピチューが珍しく言いにくそうに口をもごもごとさせている。珍しい、明日は雨か。と目を瞬かせながらピチューを見つめていると、だ。



『………なま、え。』

「は?」

『だから、…………名前……。』

「…静奈だが、なんだ忘れたのか?」

『ちげぇよ!』



訝しげにピチューに何回か教えた名前を言うと、先ほどの落ち着かない態度からは一転して噛みつくように叫ばれた。しかし名前、とそんな一言だけ呟かれても。

そんな私に呆れたのか何なのか、ピチューはようやくはっきりと口に出した。



『俺は!ピチューっつー個体名じゃなくて!俺だけの名前が欲しいってんだよ!』



少し頬を赤らめて叫んだピチューは決まりが悪そうに私から視線を反らした。
名前、つまり煌希がつけていたような名前か。真琴とか、そういう。

名前、個々を識別する存在証明のようなもの。 親が子につけるように、私もピチューに。



「…そんなに欲しいのか?」



普通に聞いたはずの声は、震えていた。あぁ、もう。私は臆病者だ。名前なんて大事なものを私に求めているんだ、応えてやりたいとは思う。
でも、でもな。名前なんて私が付けて、それで呼び始めて、情が移ったら。ピチューのままでも危ういのに、今こうして同じ空間にいるだけでも時間を共有してしまっているのに。別れを、惜しみたくないのに。どこまでも自己中な私が嫌になった。

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