現実と言ノ刃
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真琴と話し込んでいてすっかり時間の感覚も忘れていたので煌希たちが迎えに来た時は驚いた。真琴は目をパチパチさせた後に煌希に謝っていたがやっぱり律儀というか煌希を主人として見ているのがよくわかる。そういう姿を見るとポケモンも生きていて、感情があるんだなと遠いところから眺めている気分だった。



「…あぁ、煌希これ返す。」

「は? 別にいらねーよ平気だ。」

『寒いからって僕を出しっぱにしたのにぃー?』

「黙れ!」



それはもう光の早さと言ってもいいぐらいの早業で橙の巨体の前足を踏んづけた煌希の顔は少し赤くなっていた。全く、相変わらず素直じゃない。というか鼻赤いじゃないか寒いんだろ本当は。
踏んづけられた本人はというと煌希に抗議していたがそれを見事にスルーしている煌希は素知らぬ顔だ。

そういう掛け合いを見ていると少し焼きもちしてしまうけれど、だけど何も気後れする必要なんてどこにもないんだ、と自分を励ます。

ただ、コイツらはこの状態で完成されているなとは思うけれども。



「あー…それより!」

『むっりやりだなおい。』

「るせぇ!おい静奈! お前に会わせたいやつがいるからな!」

「は?」



唐突に話が切り替わったと思ったら私に関する話題になっていて間の抜けた声を上げてしまった。会わせたいやつ、と言われても当然私にはこの世界の知り合いなんて煌希以外いない。必然的に煌希の知り合い、ということになるのだろうが果たしてそれは人間なのだろうか。



「…どんなやつだ。」

「あー、まぁ…会えばわかる会えば。」



煌希がそんな遠い目をするだなんて相当ネジが抜けたやつなのか。まぁ煌希が会わせたいというのならそれなりに理由あってのことなのだろう。

ニヤニヤと笑む女好きは何かわかっているようだったが私には見当もつかなかった。



「…あ、真琴アイツの迎え頼んでもいいか。」

『…承知した。』

『いってらー。』



さも当たり前のように私に会わせたいやつの迎えを頼まれた真琴は瞬く間に私たちの目の前からその姿を消してしまった。例えとかでは無く本当に、消えた。これは、一体?

ツゥッと冷や汗が流れ落ちて、地面に落ちるまでがまるで時間の流れが緩やかになっているかのように感じ取られた。



「…い、おい、静奈?」

「っ、え、ぁ…。」

「お前目ぇ死んでたぞ。」

「え、いやだって真琴が消えて…!」

「あー…あれはー…。」



面倒そうに頭をガシガシと掻く煌希は眉間に皺を寄せていて。あ、困ってる顔だ。全く変わり無く不機嫌そうな顔になるな。そんな顔を見て少し落ち着いたのは秘密だ。

そして、ふと端に見える女好きがとても勘に触る顔をしているのが目に入る。
どうでもいいが、迎えに来た時の女好きの態度はもう何事も無かったかのようにで、やっぱり苦手だと再認識した。



「…真琴の種族はエスパーの力を持っていて、今のはテレポートって技だ。」

「はぁ……よくわからないがポケモンは何でもありか。」

「そういうことだな。」



ポケモンの全てを理解しようとすると、私の頭は破裂してしまいそうだ。エスパーってことはあれか、スプーン曲げとかできるのか?

真琴がスプーン曲げをしているところを想像して、真琴に申し訳なくなったのでその想像を打ち消す。まずポケモンはスプーンなんて使わないだろうしな、うん。

ぼんやりと場違いなようなことを考えていると、なにやら橙のポケモンが煌希の周りでうろうろとしているのが見えた。



『ねーぇーこーきくぅーん。』

「…。」

『えっねぇねぇこーきくぅーん。』

「…。」

『無視!?ちょっと酷いよそんなに僕と話すのが緊張するっていうの!?』

「何で緊張しなきゃいけねぇんだウゼェ!」



ゴンッと鈍い音を立てて煌希の拳骨が炸裂した。それも近づけていた鼻に。あれは痛い、絶対に痛い。だけど煌希の気持ちはわかる。あれは鬱陶しい。

橙のポケモンは体を丸めて悶絶しているにも関わらず女好きも煌希も、鮮やかといっていいほど無視を決め込んでいる。

少し、不憫に思ってしまった。



「…おい、大丈夫か…?」

『うっうっ…凄い…僕の耳に天使の声が聞こえる…。』

「私は天国には連れてけないぞ。」

『なにそのつっこみ!』



勢いよく顔を上げた橙のポケモンの目には若干涙が滲んでいた。これは、私が悪いのか?何なんだ一体。

だけど、泣いているのなら言うことは一つ。



「男なら泣くな!」

『この子美人なのに男前だ!』



会話が噛み合ってないのは気のせいだろうか。

煌希と女好きが揃って大きなため息をついていた。

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