現実と言ノ刃
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私の幼馴染みであり、兄のような存在であり、目標であり、そして、私にとっての好敵手。それが何故ここにいる。高鳴る心臓が煩くて上手く声が出せない。カタカタと震えるのは唇だけじゃなく、私の全身で。

暫く時が止まったようにお互いを見つめ合っていたが、その時を動かしたのは煌希だった。



「…静奈、…だよな…?」



信じられない、というような声音で問いかけられる。私の知っている声よりかは幾分低くなった声が私の鼓膜を緩やかに刺激した。
ゆっくり頷くと、煌希は私の元へ寄り、そして半ば強引に私を立ち上がらせた。

驚いてなすがままになっている私を、煌希は何か言いたげな顔をして、口を開いた。



「…ほんっとーに、静奈だな?」

「…私以外にお前の幼馴染みが勤まるとは驚きだな。」

「はっ…変わらねぇな…そか、お前か。」



質問が質問だけに思いっきり嫌みで返してやれば気の抜けたような微笑で煌希は私の体から手を離した。私だってお前が本物かどうか聞きたいけど、見ていたらわかったよ。お前は、煌希だ。

唐突に冷風が鋭く吹けば、思わず身を縮ませてしまって。そんな私の様子を見た煌希は私の足の怪我にも気づいたらしい。少し眉ねを寄せて、



「ここじゃ寒いんだろ、ってか色々聞きたいこともあるし…あー…我慢しろよ暴れんなよ暴れたら落とす。」

「は、っ!?」



捲し立てるように早口で告げた煌希はどこで覚えたのか、早業で私を背負った。おんぶはいつぶり、とかそんなことを思う暇もなく頭が真っ白になった。色々と言葉が込み上げてきて、思うように言葉が出せない。

そんな私の心情を知ってか知らずか、煌希はどんどん歩いて行く。



「ちょ、こう、き! おまっなにして!」

「あーるせぇ黙れ喋んな! 足いてぇんだろ大人しくしとけ!」

「だからってこれは…!」



この歳になって、これはあんまりにも恥ずかしい。でも足が痛いのも事実だし、下手したら本当に振り落とされかねない。羞恥に耐えて、煌希に背負ってもらうしかできない自分を殴りたくなった。

大人しくしていると、ふと気づく。随分とコイツは成長をしたようだ。背中が、広くなった。勿論身長も。きっと鍛えているのだろうその身体に、なんだか感慨深いものが押し寄せてきた。男、を感じさせるその体つきに昔と違うことを否応なく見せつけられた。
髪色に関しては、後で話を聞きたいものがあるが。だけど、やっぱり安心した。中身は私の知っている煌希なんだ、懐かしい。目頭が熱くなったのを誤魔化すように、煌希の肩に顔を埋めた。


それからは無言で、だけど決して苦しくない空気。案外近かったようで、ハクタイシティにはすぐに着いた。



「…静奈、着いたぞ。」

「ん、…ありがとな。」



あのまま顔を埋めていたので、目を開けると光が眩しく感じられた。何回かの瞬きの後に、眼前に広がるのは緩やかな空気の町。どこか古びた雰囲気だけど、決して廃れたわけでは無い、そんな町だった。

スッと空気を吸い込めば、冷たい空気が肺を満たした。



「…煌希、あの、下ろしてくれないか。」

「あ? …とりあえずセンター行くぞ。」

「おい無視かセンターってなんだ。」



町に着いたというのにコイツはどこまで私を羞恥に晒せば気が済むんだ。人があまり多くないからまだよかったものの、凄く恥ずかしいんだぞわかってるのかコイツは。顔が沸騰しそうなぐらいに赤いのも、心臓が早鐘を打って煌希に聞こえるんじゃないかってぐらい煩いのも、全部全部コイツのせいだ。

そして煌希の言うセンターというところにはすぐに着いて、赤い屋根が特徴的な建物だった。

それはよかった、が。



「おい煌希待て! お前、まさかこのままこの中に入るんじゃないだろうな!」

「はぁ? 怪我人は黙っとけよ文句あるか?」

「大有りだ馬鹿! 下ろせ! 今すぐ下ろせ!」

「あー暴れんなっての! …ハッ、ざまぁみろ。」



センターが目の前に迫っているのに私を下ろすこともしない煌希に、これは不味いと抵抗を試みたものの、それは煌希にとって一切意味の無いものだったらしい。一瞬少しだけ振り返った煌希の顔はニィ、と酷く楽しそうな顔をしていて。やられた、と思ったその瞬間に自動ドアが開いた。

後で覚えておけよ煌希、と心の中で吐き捨てて、即座に顔をまた煌希の肩に埋めた。

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