現実と言ノ刃
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予想外の助けに安堵の気持ちに包まれる。だけど、大きな瞳を据わらせて訝しげに見てくるピチューに少し緊張感が走る。それと同時にこの状況をどうしようか、という思いになる。

もしピチューが助けてくれたといっても、これから私をいたぶって楽しむ予定とかならそれこそ絶望でしかない。私はこの世界のことなんか全くわからないし、ましてやこの状況、私の身に起きたことも全て受け入れたくもない。

そんな悶々と悩んでいる私を訝しげに見つめていたピチューは唐突に口を開いた。



『…お前、何者だ?』

「……、は?」



突飛な質問に思わず気の抜けた声が出る。何者、とは。私は静奈で、人間で、それから彩天とか言う奴に手違いでここに連れてこられて…。

そこまで考えて思う。最後のそれを信じてくれる者なんて一体どこにいるのだろうか。だって、そうだろう。そんなあり得ないことを急に言われてみろ、私ならまず信じない。嘘だ、と思うことだろう。

口ごもっている私を見てピチューの訝しげなその目が徐々に敵意を帯びた物へと変わっていく。

少し焦った私は思わず口を開いてしまう。



「何者、と言われても…私は静奈で、人間で、それで…。」

『やっぱてめぇ俺たちの言葉がわかるってのか。』

「…え…っ…おい、まさか。」



ザワリ、と背筋に冷たい物が走った。これはどうやらこのピチューにカマをかけられたらしい。最初から私の存在がどうとか、そんなことはどうでもよかったのか。

そうか、まんまと引っ掛かったな。マズイ、そう思った時には既にピチューがその身から電気を垂れ流して臨戦体勢に入っていた。



『…わかるなら最後に質問だ、何故ここにいた…密猟者か…!?』



それは誤解だ。密猟者というのは恐らくポケモンを手当たり次第に捕まえていく者のことだろう。そんなこと、私ができるはずもない。

そこまで考えて少し、カチンと頭に来るものがあった。そりゃこの蛾たちの縄張りに入ったのは悪かったと思う。不可抗力であったとしても。
自分でも理不尽な考えだとはわかっているがどうして私がこんな、こっちに無理矢理連れてこられて襲われて挙げ句の果てに密猟者なんて誤解をかけられなきゃならない。

ザワリ、森のざわめきが私の味方をしてくれているような気がした。



「……んで…。」

『…あぁ?』

「何で私が密猟者なんて疑いをかけられなきゃならない…私は、ただここに抗うこともできないまま連れてこられたようなものなのに…!」



ギリッと歯軋りの音がいやに大きく聞こえた気がした。もう、いい。疑いだとかそんなことよりも次々と襲ってくる災難にもう限界だ。何だ、何なんだ。寄って集って私をドン底に突き落とす気か。それならかかってこい、抗えるのなら全力で捩じ伏せてやる。



「大体密猟者というならそれなりの装備をしてここにいるものじゃないのか?みろ、私は丸腰だ。それに、なによりこの世界のことなんて全く知らない私に俺たちの言葉がわかるのか、なんて言われてもこっちにはさっぱりだ。」

『…お前、何を言って…。』



私の畳み掛けるような言葉にピチューは戸惑いを隠せていない様子だった。だけどそんなこともうどうだっていい。私は、これでも泣きたいんだ。

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