現実と言ノ刃
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歪んでしまいそうになる顔に無理やり笑顔を張り付けて、 ピチューから目を背けない。そうだ、擬人化できたんだ。普通なら喜ばしいことのはずなんだ。喜べ、喜べよ。

それでも喉は声を絞り出すこともできなくて、それどころか今声を発すると泣き出してしまいそうで。



「……静奈?」



いつの間にかうつむき加減になってしまった私に、どこか不安げなピチューは私の顔を覗き込むようにして目を合わせてきた。真っ黒な色は私にとって見慣れた色の瞳。

あぁもう、そんな顔をさせたくないだなんて思っちゃいけないのに。体は勝手に動いていたんだ。



「…おめでとう、実光。」

「っ、お、おい!」



体を捻ってそのままピチューを抱き締める。私よりも少し小さな体はそのまま包み込めた。ピチューからは温もりが全身から伝わってきて、それがまた切なくなって顔を隠すようにピチューの肩に顔を埋めた。

きっと今の声は震えていたのだろう、だからそれを隠すために、私は。


慌てていたピチューも決して引き剥がそうとはせずに、何をするでもなくそのまま。無言が心地悪かった。人間の姿にこんな容易く成れてしまう獣、ポケモン。受け入れがたいんだ。だってこんなにも人間の形をしていて、人の言動で一喜一憂する。それはあんまりにも人間臭かった。



「…静奈、俺…擬人化しない方がよかったのか?」



唐突にそんなことを言い出したピチューは私の不穏な空気を感じ取ったのだろうか。暫く無言だったが、私はゆっくりと首を横に振った。本当のことなんて、言えるわけもなかったのだから。



「実光は、どうして擬人化をしてそんなに嬉しそうなんだ?」



なんてことのない質問だった。私からしてみれば疑問の固まりだけど、きっと別の生き物の形になれることが嬉しいのだろうとそんな程度の結論で片付けたのだけども。

するとピチューは先ほどまで動きもしなかった腕を私の背中に回してきて。



「だって、…静奈と一緒の姿になれたことが…嬉しいから。」



直球、だった。思わず離れようとするけれどピチューが私を抱き締めていることによりそれは叶わず。本当に嬉しそうな声音で放たれたその言葉は私を揺るがすには充分すぎる程の威力を持っていたのだ。

それは少しの恐怖も含んでいた。

だって、なんでそんなこと言うんだよ。私はお前が擬人化しても喜べなかったやつなのに。どうしてお前はそんなに純粋にそんなことを言えるんだ。


今度は、私が抱き締められる側だった。唇を噛み締めて渦巻く感情に耐える。私は擬人化しないでほしかっただなんて言えないよ。



「そ、っか…、…本当におめでとう、だな…っ」



この瞬間だけ、嘘を許してほしい。できるだけ明るい声で、ピチューにしがみついた。顔が見えなくて本当によかったと思う。こんな誤魔化し、いつ破られるかわからないけれど。



なぁ、ごめんな。私のせいでこんな、擬人化をさせてしまって。





(だけどあの言葉は、怖くもあったけれど嬉しくもあったんだ)

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