現実と言ノ刃
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冷たい気温を仲間内で耐え凌ぐように身を寄せ合っているこの森に来るのはもう何回目だろうか。初めは圧迫感しか無かったここも、その時の気の持ちようと言うべきなのだろうか。今はそんなものも無く、ただただ、走る。何処を?森の中を。
「お、い!実光!おま、え、早い!」
『ほら早くしろよ静奈!置いてっちまうぞ!』
これでも抑えてる方だ、と駆けながら言うピチューに嘘つけと叫びたくなる。流石に息が上がってきたが、足が動かなくなったという程でもないので音を上げて止まるのも悔しい。
今にも唇が割れそうなぐらいに冷たい風を切って、固くむき出しの地面を蹴って、目的の場所まで。
『お前らー!出てこーい!』
「はぁ、はっ…つ、ついた…。」
開けた視界、以前見たそれと変わらない風景。けれども何故だか前よりも明るく見えた。
私が肩で息をしている中、ピチューは早く早くと耳をパタパタと動かしている。あぁ、こうして見ると愛らしいんだがな。
そして、苦笑いを浮かべていたであろう私の耳に届いたのはあの子ども特有の、高い声。
『うわぁああ兄ちゃんだぁあああああ!』
『きゃー!』
「っ!?」
ガザガサッと草を掻き分ける音が四方八方、様々な方向から聞こえてきたかと思うと悲鳴にも聞こえる声で飛び出してきたちびたち。これ以上無い程に目に光を閉じ込めてピチューに抱きついた。思わず身構えた私は警戒を解いて今にも潰れそうになっている、というかすでに潰されているピチューを生暖かい目で見る。
『ぅえっ、おま、おまえら、ちょ、』
『わーいわーい!』
『どけぇええ…!』
「……。」
このままだとピチューがプチッと音をたててしまいそうだったので無言で近寄ってピチューを引きずりだす。上に乗っていたちびたちも転がり落ちていった。一瞬、ピチューの毛が抜け落ちていくのが見えたのはきっと気のせいだ、きっと。
ところでコイツ、心なしか薄っぺらくなったか?
「…大丈夫か?」
『大丈夫に見えるか馬鹿野郎。』
「それだけ言えたら充分だな。」
もっと早く助けろよと恨めしそうな目で見られたがそれを軽く無視してピチューを揺すってみる。吐く!吐く!と口元を小さな手で覆っていたのは何だか可愛かった。
『…お姉ちゃん…?』
私がピチューと戯れている中、耳に心地よく響いてきた声はか細く、恐る恐るという表現がぴったりだろう。そうだ少し気をとられていたがここはピチューたちの集まりの中だった。視線を向けると目を見開いたちびたちが私を見ていた。その視線を怖いとは少しも思うことはなかったのだ。
『っお姉ちゃんだー!』
『お姉ちゃーん!』
「お、おぉ!?」
喜色満面、先程ピチューにしたのと同じように私に飛びかかってきたちびたち。一匹だけなら確かに軽かっただろう、だけど一斉にそんなかかってきたら私でも受け止めきれないというものであって。
結果、私は尻餅をつくはめになった。いつぶりだくそぅ。鈍痛が腰に広がっていく、こちらの痛みなんて全く気にしてないであろうちびたちはきゃっきゃと嬉しそうに私に擦り寄ってくる。
『いらっしゃいお姉ちゃん!元気でよかった!』
「お、う…お前たちも、元気そうだな。」
『うん!』
無邪気な笑顔に癒された私はすでに鈍痛などどうでもよくなっていた。我ながら単純だと思う。ちびたちが全身に張り付いてるからか、寒さもあまり感じずにいられた。
ほのぼのとした空気、そこに感じた一つの視線。
誰かって、まぁピチューだったわけだが。
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