現実と言ノ刃
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私の空気が重くなったのを感じ取ったのか、ピチューは心なしか悲しそうに口を尖らせて耳を垂らした。
『嫌なら、別に…いいけどよ。』
「うっ…。」
止めろ、そんな声で私を追いやるな。見た目的にも破壊力抜群なんだぞわかっているのか。
そんな私の気なんて全く知らないだろうピチューは諦めたようにしょぼけて私に背を向けてしまった。本気で期待していたのか、はたまた試しに言ってみたのかはわからない。だけど、そんな姿を見せられて私だけが保身に走るわけもいかない。
これこそ、罪悪感か私の諦めなのかは誰にもわからないだろう。気づけば私は口に出していた。
「………実光(ミコウ)」
『…は?』
「実光…お前の、名前だ。」
ぽかん、と口を開けるピチューはまさかの展開についていけていないようで、硬直状態。暫くしてから実光、実光と自分に馴染ませるように小さく呟きだして。次第に尻尾もゆらゆらと揺れだした。目は徐々に輝きだして、私の方を見つめて。
そして、私にその小さな体で体当たりするみたく、抱きついた。
『っ、静奈!』
「な、んだ。」
『実光だなっ、俺が実光だよな!』
「…うん、お前の名前は実光だよ。」
震える手でピチューを撫でてやれば本当に、本当に嬉しそうな顔でニカッと笑った。
穏やかな空気、嬉しそうなピチュー。そんな中一緒にいる私。何だか、場違いじゃないか? だって、まだ本当に「実光」とは呼べないから。
それでも。
「…これからも、よろしくな実光。」
無邪気な、裏表の無い笑顔。それが眩しくて、直視できないぐらいに真っ直ぐだったから。
私も、笑えたんだ。
『っ…静奈!森に行こうぜ!』
「は、っちょ、おい!」
何かに突き動かされたように駆け出したピチュー。その様はキラキラと幼子のように全身で喜びを表現している風にも見えたんだ。
正直、あんなに喜ばれるとは思ってもみなかった。ただ、ピチューと呼ばれるのが嫌で欲しがってるものなのだと思ってた。そうかこれが親の気持ちか。まぁ、それだけ喜ばれたなら、私もつけた甲斐があるというものだ。
『ほら静奈、早く来いよ!』
ドアの前で止まって早く早くと私を急かすピチューを見て、微笑ましくも様々な感情に駆られる。じんわりと、暖かい感情が込み上げてきて。 それは何でか心地好くて、見ていられなくて、切なくなった。
それを悟られないようにほんの少しだけ口角を上げて、ピチューの元へ。するとピチューは嬉しそうに、幸せそうに笑ってまた駆け出した。
『名前!俺だけの!自慢してやるんだ!』
今にも羽が生えて飛んでいくんじゃないのかと思えるぐらいに舞い上がった様子のピチュー。その言葉に何故森へ、という言葉は要らなかった。そうか、あの子たちの元へ。
オモチャを買って貰えた子どものようだ、と目を細めて実光を見るとキラキラ輝くピチューがもっと光を帯びて見えたんだ。
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