現実と言ノ刃
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煌希の取り合い、と言えばいいのだろうか。そんな攻防戦を延々と繰り返してとうとう煌希がキレて私たちを引き剥がしたのはつい先程のことだ。

私と非常識の空気は端から見ても険悪なものとなっているだろう。ちなみにもう名前では呼ばなくした、非常識で充分だ非常識で。



「…お前…折角オレがコイツを呼んでやったのに…。」

「…仕方ないだろう。」

「仕方なくねぇよなんであんなに言い合いができるんだ…!」

「煌希ーお腹空いたー。」

「るせぇ!」



なんて纏まりが無い会話なんだろう。お互い煌希を挟んではじとりとした視線を送り合う。絶対、絶対負けないぞ。



「…はぁ…で、お前本当に帰るのか。」

「うん、久しぶりに煌希にも会えたしーそれに、」



ちらりと私の方を見る非常識の目は力無く、また私を見てないと思える程に薄かった。
ゆっくり、コマ送り再生するみたいに非常識の唇が動くのを捉えたのは私だけだろう。



「迷ってる子にも会えたし。」

「は…?」

「……。」

「迷子にならないように、気を付けて。」

「おい、夢依…。」

「自分の居場所、それを錯覚しちゃダメだよ。」



それはまるで、お前の居場所はここでは無いと言われているようで寒気がした。ある意味での、拒絶。先程までの薄ぼやけた目とは変わり、全てを見透かしたような無感情な目に一瞬恐怖さえ覚えた。コイツは、何を知っている。

それでも今までのように言い返せなかったのは私がそれに納得してしまったからなのか、それはわからない。

ピリッとした緊張の空気が流れる。それをまるで感じてないかのように、あっさりと壊すように、非常識の雰囲気がガラリと色を変えた。



「じゃあ、あたし帰るからまたねー。」



何事も無かった訳じゃないのに、この雰囲気を作った本人なのにとても軽々とそれを変えてしまった。これはきっと個人が持つ性質なのだろうな。私には無いもの。代わりにあるものは何なんだろう。

煌希が真琴を出す、乱すだけ乱した非常識は呑気に手を振りながら真琴と共に消えていった。

再び二人になった。何処と無く気まずいのは私だけだろうか。



「…アイツの言うこと、深く考えんなよ。お前考え過ぎると塞ぎこむんだから。」

「わかってる。」

「わかってねぇよその顔は。」

「だって、あんな言い方。」



滑り落ちるように出てきた言葉は正に拗ねている子どもそのもの。人のことは言えないな、と一人自嘲気味に口角を上げた。表情筋は強張っていて、とてもじゃないが見れた顔をしていなかっただろうけど。



「静奈…。」




聞こえた大きなため息。思わず肩が跳ねる。呆れられたかな、成長してないって、思われたのかな。嫌だな、煌希にはそう思われたくないなぁ。
でも、そんなこと思うやつじゃないって心の底ではわかっているさ。

だからこうしてまた煌希は手を差し伸べてくれる。拾い上げてくれる。どうしようもなく強がりな私を支えてくれるんだ。



「オレはどんだけ遠回りしても最後にはお前の幼馴染みでいてやるよ。」

「…え?」



それは、私がこの世界からいなくなっても?そんなことは聞けなくて、ただただ与えられる優しさに甘えていただけだったんだ。

強がりな私の手を引いて、転ばないように道を示してくれたのはそうだ、いつだって。

だから辛いよ。段々と別れたくなくなってくる。ごめんな煌希、私はここにいるべき存在じゃないんだよ。


決意だなんてそんなもの、心の中で固めたってどうしようもないのに、私はただ、目の前の辛い幸せを手放さないようにすることしかできなかった。




(別れたくないよ、嫌なんだ。)

幼馴染み、その言葉に縛られる。

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