現実と言ノ刃
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ほくほくと幸せに浸っている私と決まりが悪そうに顔を少し赤らめている煌希。だからかな、夢依の次の行動には心臓が止まる思いになった。
「煌希、煌希ー。」
「なんだよ、っ!」
煌希も予想だにしていなかったのだろう。私だってそうだ。何せ夢依が急に甘えるように抱きついたのだから。待て、どうしてそうなった。さっきから思っていたが夢依の思考回路がさっぱりわからない。
煌希も煌希だ、何でそこで固まる。いや睨み付けても効果無さそうだぞわかっているのか。
「てめっ離れろ!」
「やーだー。」
「ふざけんなよおまっアイツの目見てみろよ視線だけで人殺れそうな目ぇしてんじゃねぇか!」
「久し振りなんだからいいじゃんかよー。」
ベタベタと遠慮なく甘える夢依とそれを拒絶しきれていない煌希。
ドロリと黒いものが胸に広がる。ざわめきたつ声に耳を塞ぐことはしない。負けてたまるか。何に? そんなこと、知らないけれども。
「煌希、」
「な、んだよ。」
「…間抜け。」
私には夢依のように抱きつくなんてことは出来ないから、その代わりに空いている手をきゅっと握ってやった。すると途端に強張る煌希の体に少しだけ優越感。
どうだ、私だってやればできるんだぞ。ふふんと強気に笑ってみせれば夢依と目が合った。どこか不満そうなその目。反らさないぞ、と目に力を込めた。
「…離してよ。」
ぼそりと呟かれた言葉にどんな感情が込もっているのか私にはわからなくて、とにかくその言葉しか見えていなかった。
「それは無理な相談だな、お前が離したらいいだろう。」
「やだよ、何で離さなきゃいけないの。」
「…おい、お前ら…。」
「煌希は黙ってて。」
「黙ってろ煌希。」
「(女ってめんどくせぇえええ…!)」
手を握る力が少し強くなる。煌希をとられてたまるか、なんて余裕が無いことまで思っていた。
だからこそ夢依の次の言葉を上手く避けることが出来なかったんだ。
「煌希はあたしのだもん。」
「なっ…!」
さも当然のように告げられた言葉に頭が真っ白になった。ぶわりと全身の毛穴が開いて汗が流れ出すような感覚に、心臓が止まったのかと思った。
誰が、誰のものだって? 煌希が?誰の? お前の? ハハッ…そんなこと、誰が許そうか。
一体どれだけ呼吸を止めていたのか。それは数秒にも満たなかったのかも知れない。
「あんたは、煌希のなに?」
「…私か?私は幼馴染みだ。」
「ふぅん…。」
「それより、煌希から離れろ。」
「だから、嫌だって。あんたには関係ないでしょ?」
一向に離れる気配の無い夢依、苛立つのは当然。折角コイツを呼んでもらった煌希には悪いが、正直コイツとか馬が合いそうにない。今、この状況になったからそう思ったんじゃなくて、直感だ。
「大有りだな、煌希が減ったらどうしてくれる。」
「増えるかも知れないじゃん。」
「オレが二人に分裂とかんな気色わりぃことすると思うか。」
私たちの間に火花が散っていたとは後の煌希談だ。
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