現実と言ノ刃
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静奈と真琴が静かに穏やかな時間を過ごしている時、煌希たちは全く穏やかで無い時間を過ごしていた。殺気立っている煌希に誰も口を開こうとはしない。その近くには先程ボールに入っていたはずの雷軌の姿が。



「…雷軌。」

『…。』

「てめぇ八つ当たりしてんじゃねぇよ。」

『うっせ…イラつくんだよ、あん時のオレみたいで…認めようとしなかったオレとダブってウゼェ。』

「それをアイツにぶつけんな。」



煌希がたしなめると雷軌はむすりとそっぽを向いてしまう。苛立っているのはなにも煌希だけでは無い。雷軌自身も八つ当たりとわかっているので余計に苛立ちを増長させているのだろう。



「アイツは何にもわかっちゃいねぇんだ、これ以上アイツを傷つけんな。」

『ハッ…えらくあの嬢ちゃんを守るじゃねぇか。』

「るせぇよ。」

『お前の幼馴染みってことはお前と同じ所から来たんだろ? 何でこっちに来れたか知らねぇがどうせアイツが裏にいるんだろ。』

「…そうだろうな。」



全員の脳内に思い浮かんだのはあの白い、気持ち悪い程に中性的な者の姿。あの者が絡んでいたとしても何故ここにいるのかまでは見当すらつかない。煌希のようにあの者に呼ばれたのか、それとも。



『でも確実にアイツは帰されるだろ、それはてめぇもわかってるはずだ。』

「…。」

『甘やかしてんじゃねぇよ、帰るってんならいっそ突き放しときゃいいじゃねぇか。』

「っ雷軌てめぇ!」



ピリピリと苛立ちから帯電している雷軌に殴りかかろうと煌希が動いた瞬間、轟音と共に地面が大きく揺れた。

その音に全員が一瞬で戦闘体制を作る、がその音はとても近くから。仲間がいる場から。そこに全員の視線が集まる。音の原因、それはいつも気だるげで動くことはおろか、口を開くことすら滅多として無い、破和だった。



『…黙れ。』

「破和…?」

『ストッパー…真琴がいない…喧嘩、面倒なこと、馬鹿か。』

「…あいっかわらずてめぇのその話し方には毒気抜かれるっつーか…。」

『最後の一言だけ妙にハッキリ言ってくるのがウゼェ…。』



つまり破和の言いたいことを繋げると、『ストッパーの真琴がいないのに喧嘩なんて面倒なことするな馬鹿か。』と、言いたいようだ。それを簡単に理解できるのは長くいた煌希たちだからこそだろう。気だるげに話す破和を仲間たちは脱力しきった顔で見ていた。

破和の一言で空気が軽くなる辺り、破和も中々のストッパーなのだが本人が口を開くことが少ないため大部分が真琴に回るという。



「っとにかく!オレはアイツがこの世界にいる以上はオレにできることをするつもりだ!」

『あーお熱いねぇー。』

『るっせぇ!』



茶化す雷軌と怒鳴る煌希、いつもの二人に戻ったのを見て破和はまた目を閉じた。次に彼が口を開くのはいつになることか。

そんな彼らのいつもの雰囲気を察してようやく他の面々も口を開きだした。



『ねーぇー煌希くーんあの子ってさーぁー』

「うぜぇさっさと言え、刈るぞ。」

『酷い!でもめげない!あの子ってすんごい美人だよね!』

「オレに言うな。」

『まったまたー照れちゃってー!』



えいっと前足でツンツンと煌希をつつく橙色のポケモンはかなりの怖いもの知らずなのか満面で、嫌みの無い笑顔。その輝かしい笑顔を煌希は苛立ちのこもった目で睨み付けるも効果は薄いようだ。美人だ綺麗だとあまりにも煩く騒がれたので煌希はその前足を思い切り踏みつけて黙らせた、というか踏みつけられた痛みで結局騒がれたのだが。

苛立ちで暴れだしそうな煌希にお構い無くそのまま他の仲間も畳み掛ける。



『煌希さん、あの子スタイルもよろしかったのでは?』

『煌希ーオレもっとあの子と話したいー!』

『ねーぇーこーきくーん!』

『あーあー…どうするよ煌希?』



ニヤリと雷軌が意地悪げに問うと煌希は元々鋭い目付きを更に鋭く研磨させて怒気を纏わせる。ただ煌希にとっての苛立ちのトドメは自分の仲間たちがそんなことでは怯まないということであって。
わいわいと詰め寄ってくる仲間たちに煌希の素晴らしく低い沸点がとうとう切れた。



「てめぇらいい加減に黙りやがれぇえええ!」



その大きな怒号に驚いたムックルたちがバタバタと飛び立っていくのが妙に空しく見えたと雷軌談。この光景を真琴が見ていたなら大きなため息をつくことだろう。

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