現実と言ノ刃
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息が詰まるような空気の中、言葉を発したのは意外にも煌希ではなかった。
『それはつまり、マスターと同じということか。』
「…あー、そうなるな。」
「…えっ?」
マスターとは煌希のことだろうか。ちょっと待て、それだと煌希もポケモンの言葉がわかるということになるぞ。いやでも今のやり取りはどう見ても意思の疎通ができていることになってだな。
グルグルと勢いよく回りすぎて沸騰しそうな私に一つ、気だるそうな声が降ってきた。
『…説明。』
「あ?破和(ハワ)?」
『説明。』
「…わかった。」
それでわかったのか。怠慢を具現化したようなポケモンだな。なんというか、面倒という雰囲気がありありと出ているぞ。破和と呼ばれたそのポケモンはそのまま目を閉じてしまったがこれが常なのだろう、誰もそれを咎めることもなかった。
「…静奈、お前にはこの世界の説明をする。」
「あ、あぁ…頼む。」
急に真剣な顔になった煌希に自然と背筋が伸びた。
「この世界はあー…オレたちの世界でいう動物の代わりにポケモンがいるようなもんだ。ただ、色んな種類がいる。オレたちの世界じゃあり得なかった生き物なんてごまんといる 。お前を襲ったガーメイルは蛾みたいなもん…っていやわかるな?」
「…あぁ、あの異常に大きな蛾か。」
思い出すだけでも寒気がしてくる。あの目は本当に無理だ。なんであんなに大きいんだよ。
「んで、ポケモンは動物と違って山とか海以外にも…そうだな、町の水辺にも出てくることだってある。基本的に洞窟や空、雪山とか火山…とにかく生息地は幅広い。確認されてる種族数はいくつだったか…五百、六百? まぁそんなもんだ。」
「随分と多いんだな…。」
「オレたちの世界に比べりゃすくねぇとは思うけどな。」
それはそうだとは思うが。じゃあ煌希が連れてるこのポケモンたちもその数多くいる個体の一部というわけか。だけど動物の代わり、というには納得し難いポケモンもいるのだが。
「…煌希、そこの…青い巨体のポケモンは何の動物だ?」
『オレ!?オレ!?』
「お、おう…。」
目を輝かせて言ってくる青い巨体に少し後ずさる。えらく友好的だな…。
その巨体を煌希がすかさずぶん殴ったのには流石に二度見したが。
「てめぇ静奈が引いてんじゃねぇか。」
『痛い!酷い!ごめんって!』
「ったく話進まねぇだろ。」
進まなくしたのはお前のせいだと思うのだが気のせいだろうか。いや言わないけど。
ぐずってる巨体を放置して煌希は巨体の説明を始めた。
「コイツは竜、だな。」
「竜?」
竜というとあのおとぎ話なんかに出てくるようなあれか?
「さっきも言ったろ、オレたちの世界じゃあり得なかった生き物もいるって。その一部がコイツだ。」
「ふぅん…。」
「ポケモンの生態なんて考えたらキリねぇよ。これが根本的なことだ。次いくぞ。」
そこで一旦ポケモンの説明については終わりとなった。根本的なことでここまであるものか。竜なんてそんな神秘的で神々しいものが目の前にいるとは実感が沸かない。というのも私のイメージで実際は神々しいとも感じなかったが。
だってぐずってしょげてる竜をどう敬うような存在に見立てたらいいのか私にはわからない。
「…ここじゃ人とポケモンは共存してる。もちろんペットみたいな形での共存もいれば仕事を一緒にしたりとか、それは人によって色々だ。で、オレみたいなポケモンを連れてるやつはトレーナー…ポケモントレーナーって呼ばれてる。ある意味無職か? 」
「ニートか。」
「るせぇ!」
だってポケモンにかまけて職を探さないだなんてニートもいいところだろう。全く、不良でニートだなんて最悪じゃないか。
その言葉に吹き出す煌希のポケモンたちだったが煌希が一睨みしたことでそ知らぬ顔をしていた。あぁ、慣れているわけな。
というか、煌希がポケモントレーナーというやつならあの軽薄な男はなんなのだろう。同じくトレーナーか?
「煌希、そこにいるその軽薄な男もトレーナーなのか?」
「んー?オレ?」
『…軽薄か、似合ってるな。』
「全く嬉かねぇけどな。」
「あー…そうかこれの説明もしなきゃなんねぇのか…。」
頭をガシガシと掻く煌希の顔は戸惑っていたというか、どう説明したものか、といった風だった。
その意味がわかったのは直ぐだったけど、それは私にとってとても受け入れがたいことだったんだ。
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