現実と言ノ刃
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とりあえず煌希に言われて渋々と解放すると、その男は立ち上がって手首をゴキゴキと鳴らしながら私に向かって笑いかけた。
一般的に見たら整っているだろうその笑顔はきっと男好きの女が見たら標的にしそうな色気のある表情だった。ただ、私からしてみれば第一印象が最悪なのでその笑顔に向けられた私の目はさぞかし冷めていたことだろう。
「あー…静奈、コイツは雷軌つってすげぇ女好きだから気を付けとけ。」
「もうちょっとマシな紹介ねぇのかよ…。」
「ねぇよ。 で、これが静奈だからな。」
「わーってるっつーの。」
「…どうして私のことを知っている? 煌希、お前なにか言ったのか?」
正直それぐらいしか無いだろうが。煌希が何て話したのかが気になる所だ。
すると雷軌と呼ばれた男が物凄く嫌な笑顔を浮かべた。愉しそうに、意地悪そうに。思わず顔をしかめてしまったがそれに構わず男は口を開いた。
「そりゃ煌希の、」
「うるっせぇ!余計なこと言うんじゃねぇよ!」
「…ん?」
「っテキトーに話をしただけだ!」
「ふーん…そっか。」
何やら怒りで顔を赤く染めた煌希によって結局その話は強制的に終わらされてしまった。どうせ問い詰めても教えてくれないだろうしな。ちなみに発言しようとしていた男は煌希に頭を叩かれていた。
そして先ほどから我慢していたがいい加減に寒い。北風が通り抜ける度に体の芯から冷えていくようだ。息を吐けばそれは白く、冬を強調していた。
そうだ、そもそも煌希の仲間に会うために私はこんな寒い場所で待たされていたんだった。
「…おい煌希、お前私に会わせたい仲間というのはコイツだけなのか?」
「あぁ、それな…本当は全員一気に会わせるつもりだったのにコイツが先走るからよ…。」
「へーへー悪かったっての。」
ギロリと煌希が鋭く睨み付けても男はどこ吹く風。軽く受け流していた。そんな二人の掛け合いを見ると私の頭の中では相棒、その一言が繰り返し繰り返し響いてきて消えなくなる。相棒、か。寒さを感じるものとはまた違う、冷たいものが胸を通り抜けたような気がした。
そのやり取りが一旦終わった時、きっと私はとても冷めた目をしていたのだろうと思う。
「…どうした?」
「別に、寒いだけだ。」
「じゃあこれ着とけ、オレは仲間出すから。」
要らないと言う前にぶっきらぼうに投げ渡された上着。それは私より一回り二回りも大きくて。なんだろう、煌希が知らない人みたいだ。でもあぁ言うときっと返しても押し返されるだけだろうから一応袖を通す。大きすぎて大分袖が余ってしまったがまぁ暖かいのでよしとしよう。
その間に煌希はなにやら腰から紅白のボールを出してそれを宙に軽く放った。
すると中から不思議な光を放ちながら何かが出てきて、え?
「…はぁ?」
「あ?」
「え、どういうことだよそれ…。」
中から出てきたのは私が見たこともない生き物、きっとこれはポケモンで。色んなポケモンがズラリと並んでいて、それはとても貫禄のあるものもいる。
だけどちょっと待て、どうやってあんな小さいボールから出てきた。明らかにあのボールよりも大きいポケモンが出てきたんだぞ?
戸惑っている私を見て煌希がため息をつきつつ、飽きれ顔。
「…お前には全部説明した方が早そうだな。」
「そうしてくれるとありがたい…。」
「コイツら全員出すためにここ選んだけどお前寒そうだしなー…。」
「別にお前の服があるから平気だぞ。」
私のことはなんだっていい、いいから説明をしてほしい。一方、煌希が出したポケモンは人間みたいな形の緑のポケモンもいれば蛇のような綺麗なポケモンもいる。あとは大きな犬と、ゴリラ? あとなんだあの青いの。いかん全くわからん。
恐怖心を抱かないのは煌希が絶対的な主人だからなのか、それとも単純にこのポケモンたちから敵意を感じないからなのか。
『煌希!なぁこの子紹介してよ!』
「っ!?」
「てめぇいきなり声出すなよな…。」
いきなり煌希に向かって話しかけたのは青い巨体のポケモン。見た目と違って随分と明るい質、なのかな。それにしても青い身体に赤い翼らしきものとはえらく派手な色合いだな。
というか私を紹介か、きっと私がポケモンと対話できないと思っているから煌希に頼んだのだろう。それもそうか、ポケモンと話せる人間が沢山いたらあのピチューたちはもっと友好的だったはずだ。まぁ友好的じゃなかったのは一匹だけだったが。
そうか、これは煌希に言っておかないと。信じて、もらえるかな。
「…あ、あの煌希。」
「んだよ。」
「その、私な。」
「さっさと言えよ鬱陶しいな!」
「っなんだその言い方は!っあぁもう、私はな!ポケモンと話せるんだ!言葉がわかるんだ!」
シン、と空気が静まった。あ、不味い。勢いに任せてしまった。煌希の鋭い目が大きく見開き、ポケモンたちの視線が全て私に集中する。
居心地が、悪い。
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