現実と言ノ刃
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治療も終え、薬も処方してもらった今は煌希と一緒にセンター内の隣り合わせの椅子、ソファーに近いかな、それに座っている。処方して貰った時受け付けで代金云々でもめたて結局煌希に負けたのが悔しい。



「…煌希、ありがとうな。」

「別に、化膿しても面倒だったからな。」



ぶっきらぼうに言う煌希は素直じゃないな、と思わず頬が緩んでしまった。化膿しても、なんて自分の怪我じゃないのに。相変わらず不器用な優しさは変わっていないらしい。

さてこれからどうしようかと思考を巡らせていると、煌希が私にまた面倒な質問を投げ掛けてきた。とっても聞きにくそうな顔をして。



「…静奈、お前、どうしてここにいる?」

「…ははっ聞かれると思った……私も同じ質問をしたい。 だから、私が答えたらお前も教えてくれよ?」



そう前置きをして、私は煌希にここに至るまでの道のりを語りだした。煌希なら、安心して話せる。それだけの信頼はある。

が、話し出して一番に煌希が硬直することになるとは私も思っておらず。



「は、彩天…!?」

「…なんだ、お前も知っているのか?」

「………知ってるもなにも、オレだってソイツにこの世界に連れてこられたんだ。」

「は、…お前も?」



まさかの事実だった。まさか煌希が彩天に連れてこられたとは。私と同じ、だけど。それならひとつの疑問が出てくるわけであって。私は彩天に手違いと言われた、それなら煌希は。



「…煌希、私はな、彩天に手違いとやらで迷惑なことにこの世界に連れてこられたわけなんだ。」

「手違い…?」

「あぁ、つまりは連れてきたかった奴と間違えたのだろうと私は踏んでいるわけ、だが…っ!」



落ち着いて色々と話している内に思い出した。そうだ、コイツがここにいるのなら、あの子は。あの子もここにいるのか。

一瞬でもう一人の存在が頭を占めた私の脳に、煌希が複雑そうな顔をしていることなんて認識されなかったんだ。



「煌希っお前……陽佐はどうした!」

「…っ…陽佐、は…。」



辛そうに俯いてしまった煌希を見て、あぁ、陽佐はこっちにはいないのか、と悟った。
そりゃあ、辛いだろう。煌希にとっては大事な妹で守るべき存在で。私にとってもそれは変わらない。記憶の中にあるあの子は小さかったけど、今はどう成長しているのだろう。
私たちにとって、妹のようで、いつも私たちを引っ張っていたあの子がいなければきっと、煌希ともこんなことを話す仲にもなっていなかったのだろうと思う。

センターの、私たちのいる一角に、重苦しい空気が流れた。



「……なぁ、煌希…全く関係ないが、少し話しをしようか。」

「…あ?」



辛そうな煌希を見ていられなくて、どうにか励ましたくて、だけどコイツはあからさまな励まし等は好かないから、あくまでもさりげなく。陽佐のことはそりゃあ気になるけど、だけど陽佐の話はきっと今の煌希には辛いものがあるだろう。そう、重苦しい話しばかりじゃ折角の再会だって嫌になるじゃないか。

そして何よりも私は聞きたいことがある。



「煌希、お前…その髪はなんだ?」

「…あー…これは、だな…。」

「お前遂に本物の不良にでもなったというのか?」

「ちげぇよ!」



冷や汗を流す煌希に冷たい視線を送ってやれば即答で否定された。じゃあその髪色はなんだと言うんだ。金色が大部分を占めているそこに、所々黒が混ざっている。奇抜、というかなんというか。随分と派手な頭になったものだ。その色だときっと絡まれることも増えたのだろうと思う。目付きも随分悪くなったみたいだし。黒髪を見慣れている私にはどうにも違和感が残ったが。

気まずそうな顔をした煌希を見ていて、ふと思った。あぁ、そういえば、と。



「なぁ煌希…お前、私が昔お前のことを獣と言っていたのを覚えているか?」

「…おう。」



あぁよかった覚えていたのか。眼光鋭く闘争心をさらけ出していたコイツを、よく獣だなんだと揶揄していたのを懐かしく思う。それはもう使うことも無いと思っていた呼び名。あだ名をつけることが好きだった私独特の呼び方。

あの時は単純に獣、とまぁ抽象的だったが今はそうだな。



「今のお前は、虎みたいだな。」

「…あぁ?」

「だってその髪色、ピッタリじゃないか。」


肉食獣で、眼光鋭く、獅子と張り合うその気概。煌希にピッタリだと思ったんだ。

くすりと笑って、目を瞬かせている煌希の髪の毛を指差してやると、煌希はぷいっとそっぽを向いてしまった。なんだかそれが可笑しくてクスクスと笑っていると不機嫌そうな顔をした煌希が私の髪の毛をその大きな手でぐしゃぐしゃにしてきた。



「っ煌希お前なにするんだ!」

「るせぇ、てめぇが変なこと言うのがわりぃ!」

「あいっかわらず横暴な…!」



ふん、と鼻を鳴らした煌希の顔は酷く憎らしく思えたが、ぐしゃぐしゃになった髪の毛を直すために一旦その問題は放置だ放置。

ゴムをほどいて髪の毛を下ろすと、胸元辺りまで伸びた黒い髪の毛が見えた。日本人特有の真っ黒な髪の毛。そもそも伸ばし始めたのも煌希と陽佐と出会ってからだったな。
ふと隣を見ると煌希がこちらを睨むように見ていたのでどうしたものかと声をかけてみた。



「…どうした煌希。」

「…別に、まだ伸ばしてんのかと思って。」

「あー…まぁ、な。」



そもそも伸ばし出したのもお前の言葉があっから、なんて言うつもりもなく少し昔のことを思い出してみた。

いつだったかな、煌希に今よりも遥かに短い髪の毛を横で不器用にも結んだ時だった。それを見せた時にコイツは、



「…まぁ、頑張ったんじゃねぇの…似合わなくも、ねぇ。」



と、そんな言葉を投げ掛けてきたものだから。幼い私にはそれがとても嬉しかったから、それ以来こうして伸ばし始めたんだったな。

あぁ、なんだかさっきから話題が沢山出てくる。いっぱいいっぱい話したかったことが沢山出てくる。とても、胸が暖かかった。再会できて本当によかった。

そんな物思いに耽っていると煌希が私の髪の毛を一束掴んで、



「…お前、髪だけは女だよな髪だけは。」

「はっ…どういう意味だ!」

「べっつにー。」



べぇっと舌を出す煌希に苛立ちを覚えたので思わず煌希の頭を叩いてしまった。あ、不味いと思った時には既に時遅し。

スパーンッといい音が辺りに響き、煌希が呻き声を上げるまで約二秒。焦った私はガタリと立ち上がるも、眼力だけで人を殺れそうな煌希に腕を掴まれ座らされ、煌希から離れることは叶わなかった。くっそコイツ力強くなったな。



「…おいてめぇ静奈…。」

「…いやまぁ、その、…悪かった…。」



久々だったから、つい。と返すと口をへの字に曲げた煌希は舌打ちをした。どうやら許してくれたみたい、かな?

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