現実と言ノ刃
2ページ/4ページ





清潔な空気の中に消毒液等の匂いが少し混ざっている室内。ここは病院なのか? いかんせん顔を伏せてあるためによくわからない。何よりも周りからの視線が痛い。不躾な程に露骨な視線を肌で感じることになるのはこっちに来てから何回目だろう。

心狭さを感じていると、煌希がぽつりと、ここは主にポケモンを診る病院だけど人も診る。と一言教えてくれた。なるほどポケモンと人間兼用か、それで成り立つのが凄いな。



「ジョーイさん、コイツの足診てもらっていいですか。」

「はい、…あらその足…わかったわ、その子を下ろしてもらってもいいかしら。」



程なくして煌希と誰かの、会話から察するにジョーイという名前の人との会話がきこえた。どうやらやっと下ろしてもらえるらしい。下ろすぞ、と一言声をかけた煌希は丁寧に私を下ろしてくれた。

目を開けると、思わず身構えてしまった。だっていきなりピンクの奇抜にも程がある髪型をした女性が目の前にいてみろ、場合が場合じゃなければ不審者かと思ってもおかしくないぞ。いやでもこちらでは普通なのだろうか。



「それじゃあ、こちらに。」

「…はい。」



まだ身構えてしまう私を横目に煌希が肩を揺らしているのが見えた。くっそ悪かったなこんな対応しかできなくて。

通されたのは診察室らしきところ。一応煌希もついて来てくれた。椅子に座り足を見せれば、ジョーイは顔をしかめて。



「これは、どうしたの?」

「…蛾のような、ポケモンに襲われまして。」

「ガーメイル、ね…応急処置をされててよかったわ。」



思い出してもおぞましい、あの異形な生き物はガーメイルと言う名前なのか。応急処置で貼ったガーゼを優しく剥がされるも、やはり昨日の今日で完治しているわけもなく。痛みに思わず身を固くしてしまった。

チラリと傷口を見てみると、そこには痛々しくも綺麗な切り傷が左足にあった。あの風のような鎌鼬のようなものは随分と切れ味がよかったのかして、ぱっくりと一直線に切れていた。そこからじくじくと広がる痛みと滲み出る血に思わず目を反らす。



「そこまで深く切れてはいないけど…どうして襲われたの?」

「……森に迷っていたら出くわしてしまいまして。」

「ハクタイの森ね、あそこのポケモンたちは比較的大人しいのだけれど時々気性の荒い子たちもいるから…。」



待て、私が出会ったものはほとんど気性が荒かったぞ。私の運が悪かっただけなのか、大人しいといえるポケモンなんていなかったんだが…。あの子たちは無邪気ではあったが大人しくはなかったし。



「だけど、応急処置も早かったのね、これなら直ぐに完治もしますよ。」

「…ありがとうございます。」



優しく微笑んだジョーイの温もりが少し、煩わしく思えた。綺麗に巻かれた包帯に少し滲んでいる血に何とも言えない感情が押し寄せて来たのは何故だろう。


もう一度お礼を言って椅子から立ち上がる。旅の方ですよね、薬等を処方させて頂きます、と言われて否定しようとすれば今まで黙っていた煌希が、お願いします。なんて言うものだから私は黙ってその場をやり過ごすしかなかった。煌希の目が訴えていたからだ、黙れ。と。

* #



back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -