現実と言ノ刃





道場着に着替えて気を引き締める。帯をキュッと締めると嫌でも門下生としての私に切り替わるのだ。

誰もいない道場で一人、鍛練を積む。



「ッ……!」



受け身、武器術…それらを一心不乱でやっていく。吹き出す汗も気にならない程に静奈はそれに没頭していた。



「ハッ!」



最後に当て身で朝の鍛練を纏める。

そして静奈は肩で息をしながら自分の帯を見る。その帯の色は、黒。幼い頃からこの道場で鍛練を積んできた静奈の努力の結晶でもあった。

その帯を見つめていると静奈の顔は徐々に歪んでいく。



「…師範……私には、もう無理です…。」



呟かれた言葉は悔しさと悲しみの色に染まっていた。
そしてその場に蹲った静奈は、自分の体を抱き締めて何かに堪える。



「私には…師範の言葉を…叶えることができません…。」



静奈が祖父に言われ続けていたこと。それは、“色鮮やかな人生を送れ”

しかし今の自分には無理なのだ。祖父が亡くなってからというもの、元から色褪せていた日々が更に色褪せてしまったのだから。


あぁ、何か私に起こらないだろうか。


そんなことを思っても、私の人生は小さな頃に読んだ童話のような物語にはならない。あくまでも、平凡な日常なのだ。


既に彼女の日常は平凡ではないのだが、感覚の麻痺してしまった彼女がそんなことに気づくはずもなく、彼女の一日は始まったのである。


…彼女が思い込んでいる、最後の下らない日常が。





(こんな日常、誰か壊してくれよ。)
(…何て言ったって、それは所詮…夢物語。)

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