夢幻を繋ぐ約束

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少し乱れた息を整えてオレがついたのは広い平野に建つ小さな一軒家。…ここにアイツがいる。久しぶりにこの家に来た。

…今いるかどうかは知らないけど、家の中が静かなことから誰もいないんじゃないかと思う。



(とりあえず、ノックするか。)



何もしないわけにはいかないので玄関のドアを前足でノックする。

…するとあっさりとそのドアは開いた。まるでオレが来ることを予想していたみたいに。そして目の前に来たコイツはいつもの飄々とした表情で、口を開く。



「…よう、よく戻ってきたな?―新月」

『お前までそれで呼ぶな……幻利』



新月…どっかの馬鹿が俺につけたコードネームみたいなもん。ネーミングセンスの欠片もねぇ。
月光ポケモンと言われてる俺に皮肉をこめてつけた名前。

もちろんオレはこの名前を気に入る訳がなかったからアイツにもこの名前を教えなかった。



(…そういやオレ、アイツの名前知らないな。)



そこまで考えて我に返ったオレは頭をふってその考えを消す。



(今さら…だ。)

「…悩んでるなぁ、おい。」

『っ!…別に悩んでなんか…。』



簡単に見抜かれたことに驚いた。やっぱりコイツは目敏い。その癖自分のことは見せないから掴みにくい。
まず、オレはそこまでわかりやすい風にしたつもりはなかった。…つまりそこまで不安定ってことか…?

しかし次の瞬間にネタばらしをされた。



「悪いな、全部を真音(シンネ)に頼んで視てもらった。」

『……!』



全く気づかなかった。いくら真音だからって視られてるかもしれないっていう疑問すら抱かなかった。



「まぁ、視てたのは真音だけだし視た情報は俺たちしか知らねぇから問題ないぞ。」



そういう問題でもない気がする。プライバシーの侵害とか色々言いたかったけど何とか我慢した。コイツにそんなこと言ってもムダなのは承知しているからな。



「…で、お前は何でここに戻ってきた?」

『は…視てたなら何で俺がこっちに戻ってきたかぐらい…』

「そういう意味じゃなくてな…。」



じゃあどういう意味だ。 その言葉を口にする前に幻利が口を開いた。



「お前…何でもう擬人化できるはずなのに戻ってきた?」

『………は?』



オレが…擬人化?

その言葉を聞いた瞬間にオレの中の何かが音を立てて崩れた気がした。

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