夢幻を繋ぐ約束

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ずっとずっと、守りたいものがあった。最初はオレのパートナー。初めての、トレーナー。いつも一緒にいて、だからずっと一緒だと思ってた。でもオレはそいつが危険な目にあっているのに守れなくて。力が足りなくて、結局そいつを失ってしまった。



(オレは…弱い。)



壊れそうになる心。逃げるようにその後オレは旅に出た。一人で、初めての仲間たちも捨てて。
そんなあても無い旅の道中、アイツに出会った。オレよりも小さいのに生意気な奴に。



(…ここってカントーだよな?)



最初にそう思ったのは仕方ない。何処からか逃げてきた、と言われれば何とか納得できるような気もするが、あんまり深く考えてても仕方ないのでそこは追及しないことにした。
そして、その後色々あってなぜか一緒に放浪することになったんだが。


また、守りたいものができた。
今度こそ守ってやると誓った。



(それが甘い考えだと知らずに。)



アイツはずっと一人で生きてきたらしく本当に時々だが甘えてきた。
しかも何でか知らねぇが『兄貴』なんて呼んでくる。



(まぁ悪くねぇ。…弟か。)



オレとアイツの容姿は似ているものがあったから。
兄弟と思っても不思議と嫌な気はしなかった。ただ、どこか神秘的な雰囲気になる時があって、その時ばかりはどこか遠い存在のような気もしたけども。何者、だとか色々思うところもあったけど、それでも一緒に過ごした時間はオレの心を癒していった。


アイツと一緒にいるようになってから数年、数年? いやどれだけ一緒にいたかもわからない。とにかく、何でも無いような日だと思われた、ある日。
よくわかんねぇ集団がオレたちのところに来てオレたちを連れ去ろうとした。力技で、強引に。



はいそうですかと連れ去られることを望むわけも無いオレたちは必死で戦った、が多勢に無勢。数が多すぎた。トレーナーの指示が有るのと無いのでは状況が著しい変化を起こす。確かに、このままじゃ捕まるだろう。だがここで二人して捕まるわけにはいかねぇ。



(コイツだけは絶対…!)



半分は、自己満足だったのかもしれない。結果的に、オレが囮になってアイツを逃がした。アイツが捕まればどうなるかぐらいは大体の予想がつく。飼い殺しの道を歩ませたくなかった。だから、逃がしたことに対して後悔はしてねぇ。



それからオレは捕まって、気づけば牢屋の様な場所に閉じ込められていて、早々とわけわかんねぇ実験とやらを受けることになった。それを受けたのはオレだけじゃなかったし、オレの目の前で死んでく奴もいた。

垣間見た、いや、突きつけられた人間の黒い部分。ピリピリとした空間、見下す欲にまみれた目。無慈悲、救いは無い、あるとしたら生き延びること。



(実験体ってか。…なめてんじゃねぇぞ)



オレは気の遠くなるような実験に耐えた。何度も何度も死にそうになった実験の中、自我だけを必死に保って、生きるためだけに他のポケモンすらも踏み台にして。

こんなやつらのために死んでたまるかよ。オレのこれから生きる道を閉ざされてたまるか。

ただ単純に、一心に、ひたすらに生にしがみついた。

それにオレはあの時約束したんだ。



『またお前を見つけにいく。だから…お前もオレを探せ。』



まぁ我ながら勝手なことを言ったとは思う。でもそれがあったからこそオレは今まで自分を見失わずにいれたんだ。きっと、アイツも。そうだといいな、だなんて軽い願望に近かったけど。
忘れちゃいけない、忘れられないアイツのこと。最後に見たアイツのあの泣きそうな、悔しそうな、…憎しみの籠った目はいつだって鮮明に思い出せる。種族柄、人間のことを好いてはいなかったから。それだけが心残り。


そして実験は成功。後遺症も残らなかった筈。研究者たちが話していることを全て聞き取れた訳じゃ無い。ただ、成功だと大きな声で言っていたのはやけに耳に残っている。
オレの実験の結果は身体能力の異常な向上。要は戦闘員として扱われるんだろう。言い様に使われる、だけど成功体だから他よりは大事にされるだろう駒として。


成功体として実験終了となり、暫くしてからのこと。何でか知らねぇがオレに任務とやらが与えられた。それと同時に、ふざけた名前もつけられた。

与えられた任務内容はごく簡単そうに思えるもの。



「マサラにいるポケモンの言葉がわかる女を連れてこい。」



このことでオレの人生は大きく変わり始めた。きっとこれまでに無いぐらいの大きな転機。

ザワリと揺らめいたのは、その予感だったのだろうか。





(あたしはずっと欲していたのかも知れない)

(オレはもう失いたくない)


だから、惹かれる

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