夢幻を繋ぐ約束

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そしてこいつが寝てから時間もたってきた頃…。



(…そろそろいいよな)



もう熟睡してるだろうと思い、身を捩ってこいつから離れようとした。
なのに…。



(…離れねぇ。)



オレが離れようとした途端にこいつは腕に力を込めてきた。
起きてるのかと思ったらさっきと変わらない寝息が聞こえる。どうやら無意識らしい。



『…おい、離せよ』



聞こえてないとわかっていてもつい言ってしまう。



『起きろって』

「……………で。」

『は…?』



今こいつは何て言った?か細い声だったから聞こえなかった。…もう一度。

そしてオレは無意識の内に耳をすましていた。





「…………いかないで」

『……っ!』



それはものすごく頼りなくて、泣きそうな声だった。こっちまで切なくなるような声。

…そしてこいつはオレを強く抱き締めた。


少し痛いくらいの力でオレを離さないように。



「いかないで……。」



消えそうな声で、懇願するような声でこいつは更にオレを抱き締めた。


そしてそんなこいつを感じてオレはあり得ないことを思ってしまった。




―こいつの弱さと儚さを守りたい、と。



でもすぐに我に返ったオレはこんなバカなことを思った自分に嫌悪感を抱く。



(…大事なものを守れなかったオレが今さら何でこんなこと思ってんだよ)



それにオレはこいつを……騙さなきゃいけないんだ。信用させてから連れていかなきゃいけない。
別に同情もこんなことを思う必要もないのに…。
なんで……。


思い当たるとするなら…一つだけ。



(オレはこいつに惹かれてる…?)



それなら…もし惹かれてるなら…オレはこいつと距離をおかなくちゃいけない。確かに信用はさせなければいけないけど。
でも…



(オレがほだされてどうするんだよ…!)



引き返せなくなる前に壁を、境界を作らなければいけない。



(…でも今だけはこのままで…。)



そう思うことが惹かれてる紛れもない証拠だと知らずにオレはこいつに身を寄せた。





(いかないで…か。)


―こいつはオレの心を見透かす。

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