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ブラッキーと一緒に生活することになりました。ブラッキーはよく動いてくれて、朝からあたしを起こしてくる。まだ眠たいのに。あと掃除をしろとワガママを言ってくるから頑張ったのにまだ怒ってくる。

ちょっと働きすぎかも。そんなに働いたらかろーししちゃうよ。

ふぅ、と息をついてソファーにどーん。ぽふっ。一休み。おやつの時間前だ。
ブラッキーはあたしの目の前にちょこんと座った。カーテンも開けて気持ちいい光が射し込んでくる。ブラッキーは難しそうな顔をして目を鋭くさせちゃってる。人だったら眉間にシワが寄ってそう。


『……こんな立派な家を持っているのにどうしてこんな汚くするんだ……!』

「……立派なの?」

『そもそも、どうしてこんな家に住んでいるんだ?』


どうして、どうしてだっけ。そうだ、あたしは院長さんからこの家に住みなさいってこの家をもらって、そしたらブラッキーが来たんだ。


「院長さんにね、貰ったの」

『……院長、さん? 貰った?』

「うん。 あたしね、前は孤児院にいたんだ」

『孤児、院……』


そう言うとブラッキーはまた少し不機嫌そうな顔になる。重たい、冷たい目になった。
でもまだ聞きたいのか、それで?と聞いてきた。


「んーとね、孤児院を出るって院長さんに言ったの。 そうしたらね、じゃあここに住みなさいって」

『……なんで、孤児院を出るなんて、』

「……忘れちゃった」


どうしてだったかな。孤児院、なにがあったっけ。みんないたね、院長さんも、あたしに優しかった子たちも、……優しかった? みんな、あれ、どんなお話してたんだっけ。


───きもち、わるい


「……ぁ、」

『……?』

「……やっぱり、なんでもないや」


ふと、思い出したのがひとつの言葉だった。でも、思い出したってどうしたらいいかわからないし、いいや。うん、いいや。

ブラッキーは瞬きをしてあたしをじっと見つめたと思ったらなにか、言葉を選んでいるのか口を開けては閉めている。それでも言いたかったのか、一回深い息を吐いた。


『……お前、かわいそうだな』

「……かわい、そう? なんで?」

『なんでって……あー……親、とかいないの寂しく、ないのか?』

「だって、顔も見たことないのに、寂しいなんてあるの?」


顔も知らないし、生きてるのも知らない。なぁんにも知らないのに、どうして寂しいなんて思うんだろう。親は血の繋がった存在だけど、あたしは親を知らないから、きっと繋がった存在じゃない。だって、傍にいないんだもの。
昔絵本で見た赤い糸も、あたしの糸はあたしに繋がってるから、あたしの傍にはこれからもずっと誰もいないのかもしれない。


『……そうか、それならやっぱりお前は、かわいそうだ』

「それ、わかんないよ」

『……なら、いい』


ふい、と顔を背けたブラッキーはソファーからおりて丸まっちゃった。なんだろう、かわいそうって、なに? でも、ブラッキーの雰囲気がなにか変わったのはわかった。少し、影がかかったような、薄くぼやけた目。真っ赤な目に霧がかかったみたいだった。

なんでかな、そんな顔をしたブラッキーがとっても溶けていなくなっちゃいそうだったから。


「ブラッキー、」

『……なに』

「あ、あったかい」


ブラッキーを抱き上げてぎゅうってしたらぽわんって熱がこもってあったかかった。ポケモンのにおいだ。


「あたしがかわいそうなら、ブラッキーはなんだろうね」

『……俺もかわいそうって、言いたいのか?』

「ううん。 ブラッキーは、今幸せなのかなって」

『……』


小さく聞こえた声は、弱々しくて、うっかり聞き漏らしちゃいそうだった。

幸せなら、ここにはいない、って。でも、幸せならあたしの家に来てないっていうことが、少し不思議な感じだった。




(なのに傍にいるお前を見ていると、自惚れる)


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