キラキラと外から太陽の光が振り込んできて、眩しい。まぶたの裏が明るくなって強制的に目を覚覚めさせられる。まだ眠たいのに。
「……ねむい」
いつもより少し低い声で呟いて、ベッドからはまだ降りない。ぬくぬくと暖かいお布団にくるまっていたい。ふぁあ、大きなあくびが出た。
あの日から一年。一人暮らしにも慣れてきて適当に過ごしている。あそこよりは狭くて小さいけど、ずっとずっと楽。外に出るのはめんどくさいけど。
お布団にくるくると巻き付いて、ころりん、ゴツッ。……痛い。ベッドから落ちた。
「……おきよう……」
朝ごはんの時間だ。何時か知らないけど。
お布団を巻き付けたままで立ち上がるキャタピーみたいな格好。起き上がって、これはちょっと歩きにくいけど、暖かいからこのまま。
ちまちまと進んでいくと、すぐにキッチンのところ。キッチン、キッチン。
「……何食べよう」
キッチンに立って、そういえば何食べようか決めてなかったと気づいた。どうしようかな、材料あったかな。あ、作るの面倒になってきたや。でもお腹すいたしな。
頭の中でぐーるぐる。作ろうかな、作らないでおこうかな。
ーーコンコン
あれ、なんか、聞こえた。誰だろう。聞き間違えかな?
ーーコンコンコン
聞き間違えじゃないのかな。とりあえず玄関に行ってみよう。
キャタピー状態からそのままよたよた。うんしょ、うんしょ。歩きにくいなぁ。
ーードンッドン
「……むぅ」
頑張ってるのにそんなに叩かなくてもいいじゃんか。ドア壊れちゃうよ。壊れてもいいけど。あ、でも寒いや。
よいしょ、よいしょ。あとちょっと。
「ついたー」
あ、叩く音止まった。開けよう。
がちゃり、ドアを開ける。あれ、誰もいない。気持ちいい風がふわーって、それだけ入ってきた。そよ風が吹いて、肌寒いけど風に揺られてまた眠たくなってきた。目が閉じそう。
眠たいな。あれ、何で開けたんだっけ。
『……おい、おい!』
「……あれ?」
『あれ?じゃないだろ!』
「……あ、いた」
意識が戻されて、声の聞こえる方に目線を向ける。下に視線を向ければ、やっとドアを叩いてた子が見つかった。
黒い、真っ赤な目。濁った色、でもきれい。夜に見たら体は夜に溶けて、きっと目と、その黄色だけが残りそうで、もっときれい。朝だと、全部が見えちゃう。
あたしね、この子の名前知ってるよ。
「……ブラッキー、だ」
『……』
「どうしたの?」
無言。無音。言ってくれなきゃわかんない。少し、迷ったような感じ。
ざぁ、って風が吹いた時、ブラッキーと目が合った。かちり、どろどろ濁ってて、汚い、きれい? 少し、暖かい。あたし、あたしと目が合っている。あたしを見ている、目。
自然としゃがんで、ブラッキーを撫でていた。柔らかくて、体温がある。ブラッキー、ブラッキー、なんでここにいるの? 聞きたい聞けない、聞いちゃえばいい。
「……なんでここにいるの?」
『……迷った』
あ、このブラッキーは、嘘つき。嘘つきの、目だ。嘘つきの声。嘘つきはダメなんだよ。でも、聞かないでって目もしてるから。ぐるぐる、迷った目。
「じゃあ、あたしの家おいで。 部屋、いっぱい空いてるから」
ブラッキーは小さく頷いた。同居って言うんだっけ。久しぶりの、誰かがいる生活だ。あ、そういえば名前。
「あのね、あたしの名前、夢依って言うんだよ」
『……夢依?』
「うん、よろしくね」
立ち上がって、ブラッキーを手招く。おいで、おいで。中に入ってドアを閉めて、そうだブラッキーと一緒に朝ごはん食べよう。
晴天の下、ブラッキーが一匹家に入りました。
朝ごはんが美味しかった日
(今日はなんだかおいしかった日)