太陽と月
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ぶわりと風が花の香りを運んでくる。風は季節の宅配人だ。 この何もない町は、真っ白なように見えて実に色鮮やかである。
そんな町にある大きな一軒家の中で、テレビの人工音が聞こえてきた。

「今日、サントアンヌ号がジャックされた事件で、一人の子どもが立ち向かったそうです!」

「乗員、乗客は全て無事! 捕らわれていたポケモンも解放されました!」

テレビを見ていた男は、興味があるのかないのか、先程から音量を無意味にカチカチと調節しながらその中継を見ている。

「船長によれば、まだ中でその子どもが奮闘しているとのことです!」

「はー……、また大変なことで」

男は全くそうは思っていなさそうな声音でぽつりと感想を漏らした。

「船長、その子は何者なのでしょうか!?」

「ああ、とても勇敢な子ですよ。私にも何者かはわからない」

インタビューの質問に答える船長を見て、男は眉を潜める。見覚えがあったからだ。しかし男に関することにはさほど記憶力を発揮しないその男は、腕をくんで記憶を探る。
はて、見覚えがあるし、何かが引っかかる。

「あれ、この船長さん見たことあるね」

ソファーの後ろからのそっと出てきた橙色の男も見覚えがあるようだ。いきなり出てきた相手に、集中していた男はびくりと肩を揺らす。

「お前、急に出てくるなよー」

「あは、ごめんごめん。なーんか見覚えがあるなーって」

「……お前もか」

「でもさー正直かわいー女の子じゃないからあんまり覚えてないっていうか」

「それな」

お互い顔を見合わせると、はははと笑いあった。どうやらどちらも男には興味がないようだった。結局、思い出すことを止めた二人は、大人しくニュースを見ることに。
船長へのインタビューから、サントアンヌ号の説明やらコメンテーターの会話など、段々と陳腐なものになってきたが、ふいに画面が切り替わった。

どうやら中にいた犯人が一斉に捕まったらしい。

「甲板の隅にまとめて犯人たちと思わしき男たちが気絶しているとの情報が入りました!これは一体どういうことでしょう! 犯人の詳細はまた入り次第伝えます!」

「……すごいな、甲板がゴミ捨て場だとよ」

さらりとゴミ扱いした男は、次第に入る情報に少し興味を向けていた。

「!?何か操舵室から光が見えています!」

「……フラッシュかな?」

「多分な」

遠くから映された操舵室は、眩しく照り輝いていたが、すぐにその光は収まった。
そして、少したってから、高い笛の音が響きだし、予知せぬことに二人は耳を塞ぐ。

「るっせ!!」

「!?今のは一体なんでしょうか!」

「終わったみたいだ、集合をかけるよ」

画面内に映る船長がそう答えていた。船長流の集合の合図らしい。戦いが終わったのだろうか。

「きっとそろそろこの場に英雄が現れるだろう。……無事ということを願わずにはいられない」

船長がそう言うと、画面は出入口に切り替わる。場は異様な緊張感に包まれていた。ざわめきが溢れる。

シン、と静まり返った瞬間に、その人物は現れた。

「船長さん!」

「おお、無事だったか!」

「あ?」

「あれ?」

その、少年とも少女ともつかぬ子どもが現れた時、画面内は一気にフラッシュがたかれたが、男二人はそれよりも先に、同時に声を上げた。
黒髪に混ざる金髪、真っ黒な瞳に中性的な顔立ち。一瞬で性別を見分けることはできないだろう。だが、その二人には引っかかるものがあった。いや、見覚えがあるといった方が正しいだろう。

「……ちょっと、呼んでくるね」

橙色の男がその場を離れる。しかし、残された男には聞こえていないのか、画面に釘付けになっていた。
すぐに橙色の男は、一人の男を連れてきて帰って来た。

「……んだよ」

「ねぇ、あれ見て」

「は? …………っ!!」

呼ばれてきた金髪に黒髪混ざりの男は、不機嫌そうに画面を見ると、その鋭い三白眼を見開いた。

「……おい、今すぐに全員集めてこい、燈命(トウメイ)!」

「えっ」

「早くしろ!」

「う、うん!」

鋭く放たれた、怒号にも似た指示に、燈命と呼ばれた男はバタバタと走っていった。
残された二人は一瞬、妙な静けさに包まれる。だが、それはほんの一瞬だった。

「……もしかして、あれか?」

「あぁ」

睨み付けるように画面を見る男は、ぐっと拳を握りしめた。

「当分、ラティルトには顔を出せないな?」

「あぁ」

先ほどと同じ返答に、男は肩を竦めた。男は立ち上がると隣に並び、肩にポンと手を置いたが即座に払われた。しかしいつものことなのか、慣れた様子で口角を上げた。

「雷軌(ライキ)、準備が終わったらすぐに出るぞ」

「あいよ。……煌希(コウキ)よぉ、お前の妹はお前にそっくりだな?」

ひらひらと手を振った雷軌と呼ばれた男は、ふらりとその場から立ち去った。

「……陽佐」

ぽつりと呟かれた名前は、もちろん画面内に届くことはなく。慌てた様子で走り去っていく陽佐を、煌希と呼ばれた男はどこか懐かしむ目で見つめていた。




(成長した妹は、何一つ変わっちゃいなかった)

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