太陽と月
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ふわふわと沈んでいた意識が浮上し始めると誰かに、撫でられていることに気づいた。それはあったかい優しい手。おっきな手は安心する。小さい頃によく撫でてくれたあの人たちを思い出すから。

そういえば何で今寝てるんだっけ、もう起きなきゃ。

重たい瞼を開けるともうあの温かい手は無くて、その感触は肌寒い風に連れていかれてしまった。



「……そ、と?」



ぱちくりと目を瞬かせる。あれ、おかしいな見知らぬ風景が広がっているぞ。空気が美味しい、目の前にはすぐに草むらが広がっているような、一言で言えば田舎っぽい。

いや待て、待つんだ。本当に知らない場所だ。夢遊病、だったっけ。そんな病気持ってないのに。

しかも日は落ちていて、薄暗い時間。ざわりと鳥肌が立つのがわかった。え、なにここ。少しだけ、怖い。いやいやこういう時こそ状況判断だよね。


確か、ポストを見て朝ごはん食べて、それから…神社に、…神社に。



「…あれ、そうそう神社に行ってあの場所に…、」

『…人間?』



そうだいきなり頭痛がしたんだ! と思い出した瞬間に後ろから声をかけられて思わず肩が跳ねた。ゆっくり後ろを振り返るとそこには、ネズミみたいなシルエット。いやこれでも目はいい方だからちゃんと姿は認識した、けど。



「……っ…?」



今わかったこと、人間は本当に驚くと叫び声なんて上げれないらしい。代わりに血が逆流しそうな程に体が熱くなった。



『人間はここに住んでなかったはずなのに…』



いや、嘘だよね。まっさか紫色の、え、でもこれコラッタにしか見えないどうしよう。ばくばくと心臓が煩い、喉から飛び出てきそうだ。やばい、変な汗出てきた。っていうか一つだけ言ってもいいよね。



「しゃ、しゃべ、しゃべった…っ」

『は?』



思いの外情けない声が出た。人の言葉、喋ってる。あれ待って今ちょっと上手に息が出来ない。浅くて短い呼吸が続く。どうしよう、何だろうこの状況。そんな、ホラー映画じゃあるまいし突拍子も無さすぎだと思うんだけど。



「は、はは…っ」



とうとうおかしくなったのか何故か笑いが込み上げてきて、そんで震える足を思いっきり叩いて、コラッタから逃げた。

ダンッと地面を力強く蹴ってからどこに右も左もわからない状況のまま走る。広い広い草原を本能でこっちと思った方向に走って、坂道を駆けおりて転びそうになったりした。



「っ、意味、っわかんないって…!」



明らかに整備されていない道でも無理やりそのまま走って、もう大丈夫かなと思ったところでようやく立ち止まれた。



「はっ、はぁ…っげほっ」



酸素を求めて咳き込みながらも呼吸を繰り返す。膝に手をついて何度も繰り返す内にようやく安定してきてくれた。

きっとこれは、夢だ。やけにはっきりしてるし走ったら疲れたし汗も酷いけど夢だそうだ。

うんうんと納得させたところで一息。随分と貴重な一息のような気もする。流れてくる風が妙に気持ち良くて頭を冷やしてくれる。家の周りにはこんな場所ないんだよなぁ。



「……あっ」



家で思いだした、ここどこだ。

根本的なことをようやく頭に出して、また肌が変な熱を持った。あの頭痛の後に倒れて、それから起きたらここにいたんだ。きっとあれが原因。でも、どうしたらいいのか全然わからない。八方塞がり。

頭を抱え込むとトサッと何かが落ちた音がした。その直後、開く音が聞こえて、光が見える。目の前で起きた。ここまで数秒。

また、胸が騒ぎ始めた。



「つ、次はな、に…」



腰を少し低くして、走り出す準備はオッケーだったのに。


なのに、どうして。



「……アブソル…?」

『…っ…?』



真っ白な毛並みにぼんやりと光る赤い目。でも、なによりも目立っているのは銀に染まった角…。認識した瞬間、頭が真っ白になって、なにも考えられなくなった。

どくどくどくと刻まれる鼓動、胸が痛い、誰、なに。血液が逆流しそうで喉から熱いものが競り上がってきて、全部吐き出してしまいそうだ。だってこんな、泣きそうなのに嬉しくていろんな感情がごちゃ混ぜになって、無性に叫びたくなった。

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