太陽と月
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由乃と別れて、街についた頃にはもうすっかり夜になっていた。冷たい風が肌を撫でて、少し身震いする。
ちらほらと民家の明かりもついてるのが見える。丁度夕食ぐらいの時間だろうか、腹の虫がぐううと音を上げた。
「……お腹すいたぁ……」
『早く宿とって飯食うぞー』
「そうだねぇ、あっかい屋根はどこじゃー」
『あそこじゃー』
ノリのいい返事と共にピチューが指指したのは、確かに探してたセンターだ。これで夕食にありつけるぜ。
小走りでセンターに入り込むと人工的な光が目に痛くて思わず目を細めた。ちょっと消毒のにおいがして、病院だったということを思い出した。そうだここ食堂じゃない。
お腹を擦りながら受け付けで宿を取る。カードを見せて、宿がとれたことを確認。時間が遅かったこともあって、小さな部屋になった。それでもいいのさ、寝食確保さえできれば!
「回復、お願いします!」
今日は一日で長くつれ回したから疲れただろうな。バトルもしたし。
ボールを渡して回復を頼んでいる間、さて何か飲み物でも買おうと近くの自販機を探す。案外近くにあって、そこにはハナダシティ産のおいしい水があったから気になってそれを買ってみた。
でもおいしい水ってなんでおいしい水なんだろう。水にこだわりなんて無いし個人的には水道水でいいや。でもゲームの時から一回興味あったんだよなぁ。
キャップを開けて一口飲んでみる。味はなかったけど、何だろう喉ざわりがいいって言えばいいのかな。飲みやすいって思った。ポケモンが飲むと体力回復になるみたいだけど、またポケモンが飲むと味が変わるのかな?
「陽佐さーん、回復終わりましたよー!」
「あっ、はーい!」
ちまちまと飲んでいると、ジョーイさんが呼んできてくれた。ボトルのキャップを閉めてジョーイさんのところに行くと二つのボールを手渡される。少しの重さが手にかかる。この小さなボールに命が守られているんだなって思うと、胸がきゅっとした。
ジョーイさんにお礼を言ってから部屋に向かう。奥にある個室で、廊下が長く感じた。
部屋の前につくと凄く、隔離されてるような気がした。だって周りに部屋がほとんどないんだけど。いや、大丈夫大丈夫ここはセンターだし。変な人なんていないさきっと。
かちゃ、とドアを開けると確かに小さな部屋だった。ベッドがひとつと、トイレと洗面所。あとは鏡とか。
「よーし、出ておいでー」
ポンッポンッと軽快な音を立てて開かれたボールからは眠たそうに目を擦るピチューと相変わらず何考えてるのかわからない顔のアブソル。
「明日はこの町をちょっと見て回って、観光しよう!」
『観光できる場所……ってどこがあるんだよ』
田舎だろ? と言いたげなピチューは首を傾げてうーんと考えている。しかーし、田舎だってみれる場所はちゃんとあるのだよ。というのもさっき町の人たちが話しているのをちらっと聞いたのだ。
ふっふんと胸を張るとピチューに軽くぺちんと手を叩かれた。ごめんって。
「ハナダの岬っていう橋を渡ったところにきれいなところがあるんだって!」
『へー』
「行こう!」
『はいはい』
凄く、適当な返事です。いいもん明日連れてくから。ハナダの岬はゲームだと確か、マサキがいたんだっけ? 小さい頃にやったもんだからあんまり覚えてないや。
ピチューとわいわい話していると、唐突にアブソルが冷え冷えとした声を被せてきた。
『おい、……あの男は一体誰だったんだ』
「……え?」
『少し前にお前に絡んできた、あの男』
聞き返すと、少し苛立ちを含んだような声でアブソルは繰り返した。ぴりり、と肌を刺すような空気に、変わる。
「……えーっと、由乃のこと?」
『名前なんでどうでもいいんだよ、あの人間は何者だ。 妙に探ってきやがって気持ちわりぃ』
「……あーっと、」
なるほど、アブソルはそういうことには凄く敏感だ。由乃がR団であることを説明しなきゃいけないんだろう。いや、説明したところでうちにはなにも問題はないんだけども。
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