太陽と月
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ふわりと風に揺らめく髪が夕焼けに溶けて、そこから一粒の滴が落ちそうと錯覚させるほどに同化している彼は、陽佐が見えなくなったあとにひとつため息を落とした。


「……いってったなぁ」

『無事に町つくとえーのぉ』

「いやーそれにしても顔立ちは確かによー似とるなぁ」

『あー確かに、じょーちゃんも目付きそんなよーなかったの』

「あーでもあれ絶対ちゃんとしたら普通に女の子やと思うんよ」


由乃とヘルガーは思い思いの言葉を出しながら陽佐に関しての感想を述べていく。陽佐のようには言葉を理解できない由乃だが、ヘルガーと微妙に会話のキャッチボールができているので彼もなんとなくは理解できているのだろう。

ぐっと伸びをした由乃は目線を下げてヘルガーを見る。


「なぁ、今からなんも仕事なかったやんな?」

『……いや化石探しに駆り出されてたんとちゃうんけ……』

「やー仕事一段落ついて疲れたわーもう湿っぽいとこおりたないし先輩のとこいこや」

『……由乃、最初っからおいの意見きいてねぇの』


冷めた目を向けるヘルガーだが、由乃はそれを全く気にせずに、ポケットから取り出したバンダナを頭につけた。


「さぁて、次陽佐に会うときちょっとは強くなっとるといいなぁ」

『ま、そりゃあ楽しみではあるけどの』

「……陽佐と初めて会ったとき見せたあの威嚇の顔、あれがバトルの時も見れたらすっごい煽られると思わん?」

『由乃、顔気持ち悪いで』


ヘルガーが若干引いた目で見ているが、確かに由乃の口元はいやらしく歪んでおり、端から見たら変質者とも見違えられなくもない。
夕日に照らされる紅茶の目に影を落とし、その奥にどろりと濁ったものを携えている由乃は至極愉しそうに喉で笑った。


「……あー……たーのしー」

『……性悪』

「……ほれ、はよ行くぜ。 どうせこれから忙しなってくるんやけ、行動縛られるんはごめんや」

『あー……はいはい』


口元の緩みを抑えようともしない由乃はヘルガーに呼び掛け、ひとつボールを取り出すも、ふと
なにかを思い出したのか動きを止めた。


「……そういや、名前教えてなかったなぁ」

『……いや別に教えんでも』

「いやー俺と一緒に教えたりゃあ楽やったのになぁー」

『燃やすぞこら』


わざとらしく煽るような口調でからかう由乃はちらちらと見下ろしながらヘルガーの様子を見ている。それに乗るように脅すヘルガーだが、まだ余裕はあるらしい薄ら笑いで止まっている。


「なー夕里(ユウリ)ちゃんっ」

『ッ燃やす!』


しかし由乃が可愛らしくもウインクつきでその名前を言った途端に、ヘルガーもとい夕里はその身から炎を溢れさせ出した。
だが由乃も慣れているのか、悪びれてもいない様子で肩を竦める。


「まーまーそう怒んなや、付き合い長いのに喧嘩別れなんて嫌やわー」

『やー、そんな喧嘩で捨てるような主人ならおいここにおらんのぉ』


そうして由乃と夕里はお互い視線を絡ませて数秒無言で見つめあったあとに同時に噴き出して笑い始めた。先程までの衝突しそうな雰囲気は何処へやら、さっぱり消え失せている。

そして一頻り笑い終わった後、笑いすぎて涙目になった由乃は目を擦りながらこの後の予定を思い出していた。


「あー……なんやったっけ、あーそうそう先輩のとこ行こや、報告終わらせたら」

『せやの、ちぃっと顔見せに行くかぁ』


同じく夕里も笑いすぎたのか僅かに涙目になっていた。そして由乃はボールを取り出して夕里を戻す。これから報告をしに一度戻るのだろう。

揺らめく陽の光に照らされる由乃は、身に纏う黒とは対照的に光に透かされていた。緩やかにあたたかい風が心地好く、由乃の髪を揺らす。


「……さて、先輩の妹にも会えたことやしはよ戻りますかぁ」


そして、それはそれは不穏な言葉を残して由乃はまた別のボールを取り出すと一匹のポケモンを出し、煌めく空に飛び立った。




(陽佐、か。太陽の子みたいやね)

夜が来たら使い物にならなくなるのだろうかと馬鹿な考えがふと浮かんだ

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