太陽と月
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あれから一日中バトルの練習を延々とやってなんとか落ち着いて指示を出せるようになって。それでようやくピチューからも及第点というお言葉を貰ったのに、だ。


「……」

『……おい、機嫌直せよ』

「だぁってさー……」


ピチューもどうしたものかと腕を組んでうちを見てくるけど、そんなの気にせずにぶすりと不機嫌中。今いるのはセンターの待合室だ。鼻を通る消毒液の臭いも今は気にならない。別の方に意識は持っていかれている。


『……お前一応謝っとけよ、一応』

『なんで俺が。勝ったんだから文句ねぇだろ』

『だーかーらー……』


盛大な重たいため息をついたピチューはやれやれと頭を振ってお手上げ状態。対するアブソルは我関せずといったような、自分は悪くないという言いっぷり。確かに悪いことはしてないんだけどね?


遡ること一時間前だ。そう、及第点と言われて喜んでその次の日にジム戦に行った。初めてのジム戦でアブソルを出そうとかそういうのじゃなくて、ただ相性を考えてアブソルを出したんだ。最初に出たイシツブテこそちゃんと戦ってくれた。指示通りに動いてくれたから、これは結構練習の成果が出ているなと思ったら。


「……イワーク」


二体目、イワーク。アブソルより、うちよりずっと大きくて、見るからに強そうな雰囲気を出しているイワークに緊張は隠せなくて、精一杯指示を出そうと意気込んで、イワークがタケシの指示で動いた途端、だ。

ぶわりと空気が膨らみ、一瞬酸素が奪われたと感じるぐらい重苦しい物質がアブソルの体からわき出て直ぐにそれは形を成して、凄まじい勢いで放たれた。本当に、刹那的なことだった。

それが放たれてイワークに当たる前にアブソルは突っ込んで行って、声を出す間もなく、というか出そうとしたらその技が直撃。タケシがイワークを呼ぶ声と同時に砂ぼこりが視界を埋め尽くして、堪らず目を覆った時にちょうど鈍い打撃音が聞こえ、そして視界が晴れた時にはもう、イワークは倒れ伏していた。


「……ア、アブソル……?」


そして、呆然とする空気なんて感じてないとばかりにアブソルはそこに悠然と立っていたのだ。


と、こういう簡単な回想でした。
勝ったことには勝ったけどバッヂ授与の時凄く気まずかった。タケシはというと、うつ向いていたうちの頭を優しく撫でてくれてアブソルに早く追い付けるといいねと言ってくれて、ジムリーダーとしての貫禄を感じた。その後色々とアドバイスも貰ったりして、何度お礼を言ったかわからない。ただ、どうやって捕まえたんだい、という質問だけははぐらかさせてもらったけどね!


「……今度は言うこと聞いてね」

『下手くその指示聞いてたら勝てるもんも勝てないだろ』

『あぁああああお前ちょっと黙れ!』


変わらずツンケンしているアブソルにカッとなった時、俊敏な動きでピチューがアブソルの顔を尻尾でビンタした。は、早い。快活な音が部屋に響いて一秒程の無音の後、今にも噛みつかんとばかりに目を鋭くさせてピチューを睨み付けるアブソル。でもごめん、ちょっとすっきりしてしまったよ。

そして始まった小競り合いを止める気も起きなくて、コント染みたそれを眺めていると少し気持ちも落ち着いてきて、お腹も空いてきちゃった。そういえばお昼時だ。


「おーい、お昼たーべよー」

『はいはいたーべるーから、こいつなんとかしろ!』

『てめぇが先に仕掛けてきたんだろ!』

『お前が余計なこと口走るからだ!いてぇ!』

「……フードここに出しとくよー」


多分これは長いかなと思ったのでお皿にフード出しておくことにした。うちは買ってきたお弁当を食べる。美味しそうな彩りで一目惚れしたんだ。特にこのハンバーグ! きっと割ったら肉汁がいっぱい出てくるんだろうなぁ。


「えっへっへっ……いただきまーす」


パキッと割り箸の音がまた食欲を誘った。

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