太陽と月
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陽佐たちがニビシティに滞在している時、トキワの森から二つの影が現れた。一房長い橙の髪の毛を揺らした青年は自分より頭一つ以上低い少女へと視線を落とす。



「…しっきー、休まなくて平気か?」

「だ、大丈夫…」



対して、黒髪を風に流して肩で息をする少女、漆姫は歩き疲れたらしい。それでも頑なに自分で歩くと譲らない漆姫に青年、支智も困ったように眉を下げた。時おり休憩を挟みつつようやくトキワの森を抜けたのだが漆姫がギブアップ寸前である。

目と鼻の先にあるニビシティ。すぐにつくこともあってか漆姫も半ば意地で歩いていた。そんな漆姫のペースにちゃんと合わせている支智はゆったりとした歩幅で漆姫を気遣う。



「…せめてタマゴ持つぞ?」

「いいの、私が持つの」



大事そうに抱えられたケースは漆姫には少し大きい。それでもよたよたと危なっかしく持つ漆姫に支智は心配そうに見つめている。どことなく、生まれたての小鹿を見ている気分になった。


漆姫のペースに合わせること数十分、ようやく町の中心にたどり着いた。どことなく漆姫は達成感に満ち溢れた顔をしている。少し頬を緩ませてそれを見る支智は可愛くて仕方がないという様子だ。

一息ついた漆姫はケースを抱え直してきょろりと辺りを見回した。



「…ここにいるかなぁ」

「どうだろうな、でも旅を始めたばかりみたいだし遠くには行ってないだろ」

「うん、…陽佐、だっけ名前」

「そうそう、目立つ容姿だろうしここにいるのならすぐに見つかると思うけど」



件の人物、陽佐を探す二人だがそこそこの人の多さで中々見つからない。実際容姿を知っているのは支智だけなので支智が見つけられなければどうしようもないのだ。

ふわりと風が優しく漆姫の頬を撫でて通りすぎていくのをくすぐったげに目を閉じた漆姫は、なにか感じ取ったのか一瞬眉を潜めた。



「…支智」

「ん?」

「…あれ」



漆姫の目線の先には青い屋根のショップから出てきた一人の子ども。肩にピチューを乗せた子どもは何やらピチューに話しかけている。コミュニケーションを図ろうとしているのだろうか。

その部分だけを表すのなら特にありふれた日常の一コマなのだろうが、その子どもは黒髪に金のメッシュがところどころ入ったような、奇抜な髪色をしていた。そして、中性的な顔立ちをしていてパッと見性別の見分けがつきにくい。露出もほぼ無く、体型が隠れているのもあるからだろうか。

だが、そんなことは二人にとって些細なことだった。



「…あれだ」

「…簡単に見つかってよかったね」

「そうだな、じゃあ渡しにいこうか。ちゃんと自己紹介、」

「できるから、そんな子ども扱いしないで」

「…しっきー最近怜に似てきたよな」



一蹴されてしまった支智は、苦笑を浮かべながらも漆姫の隣を歩く。帰りを待っているであろう怜の姿と漆姫の姿がダブって見えたことに漆姫の成長を感じた。

一歩一歩、近づいて子どもの容姿に目を向ける。真っ先に、あのぴょいんと跳ねてるアホ毛がアンテナに見えた。

近づく支智と漆姫に、流石に向こうも気づいたのかジト目に近い目を支智たちに向ける。だがそれにお構い無く、漆姫が話しかけた。



「……陽佐?」

「えっ」



漆姫が名前を呼んだことに、陽佐は目を丸くする。肩に乗っているピチューが一瞬目を見開き、そしてすぐさま自分達を睨み付けるのを漆姫は見た。

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