太陽と月
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ここがマサラだと、アブソルの言っていることが正しいのなら、何でマサラにアブソルが。いやボールに入ってたけど、そもそも何でボールに入ってるんだろう。



『……埒空かねぇな』

「えっ?」

『案内はできるだけしてやる、あとは知らねぇ』

「あっ、ありが」

『案内した後は自由にさせてもらう』



お礼言おうとしたのに、あっさりと叩き落とされた気分だ。即答で一蹴したアブソルは早くついてこいとばかりに歩きだす。慌ててその後を追うもなんだか複雑な気持ちになった。

さくさくと草原を歩いていると、自然豊かなんだなぁって思う。周りを見ても暗い中には木々のシルエットしか見えなくて。あっでも建物ちょっとだけ見えた。


いや、まずマサラってこんなに広いの?



「マ、マサラってこんなに広いんだね」

『知らねぇよ、俺に聞くな』



はいごめんなさい。だって、ゲーム内じゃもっと狭くて、というかこんな草原なかったのに。

アブソルは無言でずーっと歩いていく。こっちを見ようともしない。呼称が人間から変わらない、さっきから警戒が解けてない。

わざわいポケモンのアブソル。色違いといっていいような風貌。そういう、物珍しい見た目って受け入れてもらいにくいんだっけ。さっき人間のことを信用したくないとかそんなこと言ってたし、人間嫌いってやつなのかな。



『…おい』

「はい?」

『あれ、建物じゃねぇのか』



前を向いたままのアブソルが言ったのは、さっき見つけた少し先にある大きな建物。うん、確かに建物だけど。



『あそこまで行けば俺のやることは終わりだろ』



やれやれと言いたげにまた早足で歩いていくアブソルにこっちは小走りになる。スニーカー履いててよかった。

ザッザッザッと一人と一匹で並走することが新鮮というか、どことなく違和感があるような。まずペット飼ったことなかったからこんなのしたことないな。


近づくにつれてその大きさがわかる建物。豪邸にしか見えないのは気のせいだろうか。



「……大きくない…?」

『…知らねぇ』



それはアブソルも同感だったようで、お互いなんとも言えない空気になった。
どうも玄関が見当たらなかったのでぐるりと回っていくと、本当に広い。池みたいなものがあるし近くには川があったし、まるで自然の中に潜むお屋敷だ。明るい時に見たらもっと見えてくるのだろう。暗い今は、窓からちらちらと見える明かりがすごく幻想的。



「…すごい……きっとお金持ちの家なんだろうね…」

『適当に理由つけて転がり込めばいいんじゃねぇの』

「人間なんだと思ってんの」



これはちょっと、どうしよう。気後れするのは責めないでほしい。今さらだけどどうせなら町の方がよかった。

そしてようやく正門らしきところについた。煉瓦敷きの地面は正門を通っている。きょろきょろと見回していると、ゾッと背筋に悪寒が走った。反射的に、本能的に、地面を蹴ってそこから飛び退いた。


と、同時にバキィイッと耳に訴えるような音が後ろから聞こえて慌てて振り返るとだ。



「……あぁああっ!やっべ怒られる!」

「…えっ、え?」

『……。』



力任せに引き抜いたであろうそれはバット状の形。金属、バット。一度、深呼吸をする。うん、大丈夫。まだ、平気だ。ぐっと心臓辺りを鷲掴みにした。

深いため息をついたその人は建物からの逆光でうまく見えないけど、少し背の高い女の子だ。水色の髪の毛、だけど。前髪長すぎて目見えないけど。



「ったく……誰…って…んん?」



じっと下から上まで舐めるように見られて、硬直したその子。すると首を傾げて困った様子を見せた。

ちらりとアブソルを見ると警戒体勢、というわけでもなくなにやら困惑したように目を細めて女の子を見ていた。


硬直状態。動けないし、相手も動いてこない最中、それは崩れた。



「…天色(アマイロ)、何を騒いでいるのですか」

「うぇっ、れ、怜(レイ)…。」

「……また、勝手に壊して…」



どこから出てきたのか、今度は少し背の低い女の子が。まず最初に思ったことは、声音が凄く凛として、ピンと伸びた背筋にどことなく既視感を覚えた。

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